雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(7)

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 彼は、私からスッと目を逸らし言いにくそうに頬を歪めながら、言葉を続ける。

「なんでか分からないけど、あいつは、昔から俺に執着してるんだ。俺、今まで、あいつが女子に俺絡みで嫌がらせをしていること、薄々気がついてた。でも、俺が直接関わってるわけじゃないし、女子のいざこざなんて面倒くさい。だから、巻き込まれたくなくて、見て見ぬふりしてた。でも、それが良くなかった」

 私は、青島くんの横顔を見つめる。黙ったまま言葉の続きを待った。

「俺が何も言わないことをいいことに、あいつは、やりたい放題。俺がもっと早くにあいつを突き放していれば、白野に嫌な思いをさせずに済んだんだ。だから、アレは俺のせいでもある。本当にごめん」

 再び頭を下げた青島くんは、何を言っても自分に非があると言い張る。でも、どんなに考えても、悪いのは、木本徳香である。私は、なんと言えば良いのか考えて、しばし口籠った。

 パチパチと爆ぜる焚火の音に耳を傾ける。脳裏には、先程すれ違った際の木本の敵意を含んだ視線が蘇る。

 夏以来、睨むだけで嫌がらせをしてこなくなったのは、あの時、青島くんがハッキリとした態度を木本に見せたからだ。

「やっぱり青島くんは、全然悪くないよ。だって、夏のあの日以来、木本さんは私に何もしてこないよ。それは、あの時、青島くんが木本さんにハッキリ言ってくれたからだと思う。だから、青島くんから謝られることなんて何もない。むしろ、私がお礼を言う立場だよ。本当にありがとう」

 頭を下げる私に、青島くんは困惑気味の声を出した。

「やめてくれ白野。俺はお前に礼を言われるような立場じゃないんだ。俺は……」
「うん。わかったから。木本さんをあんなに我儘なまま放置してたのは、青島くんにも非がある。だから、これからはちゃんと態度で彼女に示そう」

 真っ直ぐに青島くんの瞳を見つめる。いつもは、青のような緑のような不思議な色をしている彼の瞳は、少し先の炎を映して、赤く揺らめいている。瞳の色が違うだけでまるで別の人のようだ。

 いつもは、爽やかで、頼り甲斐のある男の子が、どこか悲しげに、心細げにしているさまにどきりと胸が高鳴った。

 まるで見たことのない青島くんの表情に、こんな一面もあるのだなと思いながら、私は、彼の手を取る。

「誰だって面倒臭いことからは目を逸らしてしまうよ。それでも、青島くんはちゃんと向き合ってくれた。それで良いんだよ」
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