雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
53 / 124
秋の章

秋の章(7)

しおりを挟む
 彼は、私からスッと目を逸らし言いにくそうに頬を歪めながら、言葉を続ける。

「なんでか分からないけど、あいつは、昔から俺に執着してるんだ。俺、今まで、あいつが女子に俺絡みで嫌がらせをしていること、薄々気がついてた。でも、俺が直接関わってるわけじゃないし、女子のいざこざなんて面倒くさい。だから、巻き込まれたくなくて、見て見ぬふりしてた。でも、それが良くなかった」

 私は、青島くんの横顔を見つめる。黙ったまま言葉の続きを待った。

「俺が何も言わないことをいいことに、あいつは、やりたい放題。俺がもっと早くにあいつを突き放していれば、白野に嫌な思いをさせずに済んだんだ。だから、アレは俺のせいでもある。本当にごめん」

 再び頭を下げた青島くんは、何を言っても自分に非があると言い張る。でも、どんなに考えても、悪いのは、木本徳香である。私は、なんと言えば良いのか考えて、しばし口籠った。

 パチパチと爆ぜる焚火の音に耳を傾ける。脳裏には、先程すれ違った際の木本の敵意を含んだ視線が蘇る。

 夏以来、睨むだけで嫌がらせをしてこなくなったのは、あの時、青島くんがハッキリとした態度を木本に見せたからだ。

「やっぱり青島くんは、全然悪くないよ。だって、夏のあの日以来、木本さんは私に何もしてこないよ。それは、あの時、青島くんが木本さんにハッキリ言ってくれたからだと思う。だから、青島くんから謝られることなんて何もない。むしろ、私がお礼を言う立場だよ。本当にありがとう」

 頭を下げる私に、青島くんは困惑気味の声を出した。

「やめてくれ白野。俺はお前に礼を言われるような立場じゃないんだ。俺は……」
「うん。わかったから。木本さんをあんなに我儘なまま放置してたのは、青島くんにも非がある。だから、これからはちゃんと態度で彼女に示そう」

 真っ直ぐに青島くんの瞳を見つめる。いつもは、青のような緑のような不思議な色をしている彼の瞳は、少し先の炎を映して、赤く揺らめいている。瞳の色が違うだけでまるで別の人のようだ。

 いつもは、爽やかで、頼り甲斐のある男の子が、どこか悲しげに、心細げにしているさまにどきりと胸が高鳴った。

 まるで見たことのない青島くんの表情に、こんな一面もあるのだなと思いながら、私は、彼の手を取る。

「誰だって面倒臭いことからは目を逸らしてしまうよ。それでも、青島くんはちゃんと向き合ってくれた。それで良いんだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハッピークリスマス !  

設樂理沙
ライト文芸
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が この先もずっと続いていけぱいいのに……。 ――――――――――――――――――――――― |松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳 |堂本海(どうもとかい)  ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ) 中学の同級生 |渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳 |石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳 |大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?     ――― 2024.12.1 再々公開 ―――― 💍 イラストはOBAKERON様 有償画像

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

満天の星空に願いを。

黒蝶
ライト文芸
色々な都合で昼間高校ではなく、別の形で高校卒業を目指していく人たちがいる。 たとえば... とある事情で学校を辞めた弥生。 幼い頃から病弱で進学を諦めていた葉月。 これは、そんな2人を主にした通信制高校に通学する人々の日常の物語。 ※物語に対する誹謗中傷はやめてください。 ※前日譚・本篇を更新しつつ、最後の方にちょこっと設定資料を作っておこうと思います。 ※作者の体験も入れつつ書いていこうと思います。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

フリー台本[1人語り朗読]男性向け|女性向け混ざっています。一人称などで判断いただければと思います

柚木さくら
ライト文芸
※140字で書いたものですが、本文に挿絵として画像をつけてますので、140字になってません💦 画像を入れると記号が文字数になってしまうみたいです。 ⬛︎ 報告は任意です もし、報告してくれるのであれば、事前でも事後でもかまいませんので、フリー台本用ポストへリプ|引用|メンションなどしてれると嬉しいです ⬛︎ 投稿について 投稿する時は、私のX(旧twitter)のユーザー名かIDのどちらかと、フリー台本用Tag【#柚さく_シナリオ】を付けてください ❤︎︎︎︎┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‪‪❤︎‬ 【可能なこと】 ⬛︎タイトルの変更 ◾︎私の方で既にタイトルをつけている場合があります。もし他に付けたいタイトルがあれば変更していただいてかまいません (不可なものには不可の記載します) ⬛︎ 一人称|二人称|口調|性別|語尾|読み方の変更 ◾︎読み方の変更とは、一部を方言にしたり、英語にしたりとかです。 【ダメなこと】 ⬛︎大幅なストーリーの変更 ⬛︎自作発言(著作権は放棄していません) ⬛︎無断転載 ⬛︎許可なく文章を付け加える|削る ※どうしても加筆や減筆をしないとしっくり来ないなどの場合は、事前に質問してください ✧• ───── ✾ ───── •✧ 【BGMやSEについて】 ⬛︎私が書いたものに合うのがあれば、BGMやSEなどは自由につけてもらって大丈夫です。 ◾︎その際、使用されるものは許可が出ている音源。フリー音源のみ可 【投稿(使用)可能な場所】 ⬛︎ X(旧twitter)|YouTube|ツイキャス|nana ◾︎上記以外の場所での投稿不可 ◾︎YouTubeやツイキャス、nanaで使用される(された)場合、可能であれば、日時などを教えて貰えると嬉しいです 生配信はなかなか聞きにいけないので💦 【その他】 ⬛︎使用していただくにあたり、X(旧twitter)やpixivをフォローするは必要ありません ◾︎もちろん繋がれたら嬉しいのでフォローは嬉しいです ⬛︎ 予告無しに規約の追加などあるかもしれません。ご了承ください

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【1】胃の中の君彦【完結】

ホズミロザスケ
ライト文芸
喜志芸術大学・文芸学科一回生の神楽小路君彦は、教室に忘れた筆箱を渡されたのをきっかけに、同じ学科の同級生、佐野真綾に出会う。 ある日、人と関わることを嫌う神楽小路に、佐野は一緒に課題制作をしようと持ちかける。最初は断るも、しつこく誘ってくる佐野に折れた神楽小路は彼女と一緒に食堂のメニュー調査を始める。 佐野や同級生との交流を通じ、閉鎖的だった神楽小路の日常は少しずつ変わっていく。 「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ一作目。 ※完結済。全三十六話。(トラブルがあり、完結後に編集し直しましたため、他サイトより話数は少なくなってますが、内容量は同じです) ※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」「貸し本棚」にも掲載)

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

処理中です...