雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(6)

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 青島くんの隣に腰を下ろす。そのまま、しばらくの間、どちらも口を開くことなく、ただ黙ってパチパチと燃え上がる炎を見つめていた。

 小さな枯葉の山のなのに、良く燃え上がる炎は周りの空気まで熱する。安全のために離れて座っているのに、頬をジリジリと熱に焼かれているのを感じる。少し熱く感じるのに、なぜだか顔を背けることができず、空に向かって高く伸びようとする炎から目が離せないでいた。

 どのくらいそうしていたのだろうか。パチパチと不規則な炎の音だけを聞くともなしに聞いていた私の隣で、青島くんがそっと口を開いた。

「なぁ。白野」
「なに?」

 彼の呼びかけに、私は真っ直ぐ前を向いたまま答える。すると、少しの沈黙ののち、彼が小さな声を漏らした。

「……その……ごめんな」
「え?」

 彼の言葉の意味が分からず、私は、炎から隣に座る青島くんへと視線を向ける。青島くんも焚火の熱に頬を焼かれ、普段よりも赤みのある顔をしていた。

「ごめんって、なに? 私、なにか謝られるようなこと、青島くんにされたっけ?」
「あ~。うん。……その。木本の事」
「木本さん?」
「夏休み頃に、木本に嫌がらせされてたんだろ? 実は、葉山に聞いて、俺知ってたんだ。夏休みのあの日、あの雨の中、白野と木本が話してたっていうのも、実は、木本がお前に絡んだんだよな。俺、何となくそうじゃないかと思ってたんだけど……。俺のせいで、白野に嫌な思いさせちゃって……ほんと、ごめん」

 青島くんは、焚火に視線を向けたまま、思いの丈を一気に吐き出すと、そのままの勢いで、頭を下げた。私は、慌てて青島くんの腕に、自身の手をかける。それに驚いたように、青島くんの視線がこちらへ向いた。

「青島くんが謝ることなんて、全然ないよ。私は、青島くんに何もされてない」

 青島くんの瞳を見つめて、そう告げるが、彼の表情が晴れることはない。

「でも、白野は嫌な思いをしたんだろ?」
「……うん。確かに木本さんには嫌な思いをさせられた」

 頷く私に、青島くんは済まなさそうに顔を歪ませる。

「だったら、やっぱり、俺はお前に謝らなきゃ」
「どうして? 意地悪をしたのはあの子だよ?」

 私には、どうして彼がそんなに頑なに謝るのかが分からない。

「あいつ、俺のことが好きみたいなんだ」
「うん」

 青島くんは、なんとなく居心地悪そうに、お尻をズリっと動かした。そんな彼に小さく相槌を打った私の心の中でも、何かが居心地悪そうにズリっと動く。
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