雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(5)

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 バケツいっぱいに水を汲み、青島くんのもとに戻ると、彼は、両手で何かを掬うような形を作り、それを口元へと持っていっていた。

「おまたせ。水汲んできたよ。何やってるの?」

 私の声に振り向いた青島くんは、いたずらっ子がするような、ニカリとした笑顔を見せてから、手を私の方へ差し出した。

 彼の手の中を見ると、モワッとした綿のようなものがふわりと収まっていた。

「何? コレ?」
「これは着火剤。種火をまずは作るんだ」
「種火?」

 よく分からなくて私が首を傾げている間に、青島くんは、手を再び口元へ持っていくと、手の中にふうっと優しく息を吹きかける。すると、見る間に彼の手の隙間から、煙が立ち上る。それに驚いている私を余所に、青島くんは、手の中の物を、素早く落ち葉の山に落とした。

 しばらくすると、パチパチと火が爆ぜる音がする。初めての焚火に目を見張っていると、青島くんは、落ち葉の山から少し遠ざけるように私の腕を引いた。

「落ち葉は大体は枯れて乾燥している物が多いけど、時々、まだ水分をふくんだものがあって爆ぜたりするから、少し離れて」
「うん。わかった。ねぇ? さっきの種火っていうのは何なの?」
「ああ。あれは、落ち葉に火を付けやすくするためのもの。直接落ち葉に火を付けても、さっき言ったみたいに、水分を含んでいるも葉もあるから、なかなか、うまく着火できないんだ。だから、別の乾いたものにあらかじめ火を付けておいて、火を少しでも大きくしてから、じわじわと落ち葉に火を移していくのさ」
「へ~。そうなのね。私、全然知らなかった。青島くんってば、物知りなのね」

 感心して大きく頷いて見せると、青島くんは、照れたように頬を掻いた。

「昔から、じーちゃんに付き合ってこういうことしてるから、知ってるだけだよ」
「でも、すごい! だって、学校じゃこんなこと教えてくれないじゃない」

 私は、初めての体験に少し興奮している。

「ねぇ。お芋は? もしかして、もうあの中?」
「いやまだ。ほら、あそこに」

 青島くんは、落ち葉の山から少し離れたところに転がる銀色の塊を指す。

「入れなくていいの?」
「まだ、もう少し落ち葉に火がまわってからだな」
「そうなの……。焼き芋って、手間のかかる料理なのね」
「料理って」

 しゅんと肩を落とした私を、地面に腰を下ろしながら青島くんは、可笑しそうに笑う。

「まだしばらく時間がかかるから、座って待ってよ」
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