雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
49 / 124
秋の章

秋の章(3)

しおりを挟む
 青島くんが大樹ひろしげさんの軽トラから、焼き芋用の荷物を取りに行っている間、一人残された私は、焚火用の落ち葉を掻き集める。次回、大樹ひろしげさんの手が空いている時にきちんとやるから、今日は、少しの落ち葉でいいと言われている。季節柄、落ち葉はそこかしこにあるため、掻き集める作業はあっという間に終わってしまう。

 手持無沙汰に周辺を掃いていると、羨ましそうなフリューゲルの声がした。

「アーラだけ、焼き芋、良いなぁ」
「あら。フリューゲル。あなた、焼き芋がどんなものか知ってるの?」
「知らないよ。でも、このまえ、帰りに焼き芋屋さんの車とすれ違った時、とてもいい匂いがしてたじゃん」
「そういえば、そうだったわね」

 フリューゲルとの会話で、庭園ガーデン育ちの私たちは、甘く香ばしい匂いを思い出す。途端に、私のおなかが、グウっと威勢の良い音を立てた。

「あは! おなか鳴っちゃった」

 盛大な音に、思わずおなかを押さえると、さらに大きな音がした。そんな私の隣で、フリューゲルは少し呆れ顔になる。

「アーラは、すっかり下界の人だね」
「なんでよ?」
「だって、僕らNoelノエルは、そんな風に、おなかを鳴らしたりしないよ」
「仕方ないでしょ。これは……ええっと。何だっけ?」
「生理現象?」
「そう、それそれ!」

 最近の私たちは、下界で学んだ表現を使って会話をすることが増えた。

「下界の人って、そういうのが大変だよね。食事したり、トイレに行ったり、お風呂に入ったり。僕たちには、そういうの関係ないからね」
「そうね。ここに来た頃は、時間とかそういう生活の習慣に慣れるのが大変だったけど、今はもうそれが当たり前になったわ。そういう意味では、私は、もう、立派な下界の人かも」

 私は言葉を切ると、二っと笑ってフリューゲルの顔を覗き込んだ。

「でもさ、フリューゲルも結構下界に馴染んじゃってるよね?」
「僕が?」
「うん。だって、焼き芋屋さんに興味を示すNoelノエルなんて、庭園ガーデンにはいないでしょ?」
「確かにね」

 フリューゲルは、ふふっと口元を綻ばせた。最近のフリューゲルはこうして笑うことが増えた。下界の人たちのように、大きな声で笑ったり、はしゃいだりすることはないが、それでも、私たちが庭園ガーデンで暮らしていた時に比べれば、明らかに、表情が砕けたものになっている。

 「学び」のために下界へとやってきた私と一緒にいることで、フリューゲルも下界に感化され始めたのかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

相馬さんは今日も竹刀を振る 

compo
ライト文芸
大学に進学したばかりの僕の所に、祖父から手紙が来た。 1人の少女の世話をして欲しい。 彼女を迎える為に、とある建物をあげる。   何がなんだかわからないまま、両親に連れられて行った先で、僕の静かな生活がどこかに行ってしまうのでした。

犬も歩けば雨晴るる

葉野亜依
ライト文芸
 人でないモノが視える青年・宇津保は霊に取り憑かれていた。そんな時、一匹の犬に体当たりをされた。それにより霊は離れ、犬こと雨太の飼い主である比嘉と出会うこととなる。  図書館で資料を探していた宇津保はまた霊に取り憑かれていたところを雨太に助けられる。子どもの霊と本を探していて、比嘉が図書館で働いていたことを知る。  ある日、大学からの帰り道に雨太が現れた。比嘉に悪霊が取り憑いてしまったようで――。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

クロッカスの咲く頃に

雨宮大智
ライト文芸
女子高校生の黒崎杏子、あだ名は「あんずちゃん」。杏子は、年の離れた叔母と親しくなる。小説や古典文学などを好む叔母の影響を受けた杏子は、文系の大学を目指す。大学進学・就職を経て、ひとりの女性となってゆく杏子。そして、自分の人生を注ぎ込む職業を探し出してゆく⎯⎯。与津を主人公とした小説『風と共に生きる』のアナザー・ストーリー。

ハッピークリスマス !  

設樂理沙
ライト文芸
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が この先もずっと続いていけぱいいのに……。 ――――――――――――――――――――――― |松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳 |堂本海(どうもとかい)  ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ) 中学の同級生 |渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳 |石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳 |大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?     ――― 2024.12.1 再々公開 ―――― 💍 イラストはOBAKERON様 有償画像

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

愛されない皇子妃、あっさり離宮に引きこもる ~皇都が絶望的だけど、今さら泣きついてきても知りません~

ネコ
恋愛
帝国の第二皇子アシュレイに嫁いだ侯爵令嬢クリスティナ。だがアシュレイは他国の姫と密会を繰り返し、クリスティナを悪女と糾弾して冷遇する。ある日、「彼女を皇妃にするため離縁してくれ」と言われたクリスティナは、あっさりと離宮へ引きこもる道を選ぶ。ところが皇都では不可解な問題が多発し、次第に名ばかり呼ばれるのはクリスティナ。彼女を手放したアシュレイや周囲は、ようやくその存在の大きさに気づくが、今さら彼女は戻ってくれそうもなく……。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

処理中です...