雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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秋の章

秋の章(2)

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「なんだ。デカい声出して。そんなデカい声出さんでも、聞こえるわ。そもそも、用事があるなら携帯に連絡くれればいいだろ」

 ぶつぶつと文句を言う大樹ひろしげさんに、青島くんは呆れ顔を見せる。

「母ちゃん、電話したって言ってたぞ。繋がらなくて困ってるって」

 青島くんの言葉で、ポケットへと手をやり携帯電話を探す大樹ひろしげさんだったが、探し物は一向に見つからず、やがて「ああ」と何かに気が付いたようだった。それから、脚立をたたみ、肩に担ぎあげると、こちらへと向かってくる。

「つばささん。すまんが、今日はこれで終わりにしてくれ」
「はい。私は、ここを片付けたら終わります。ところで、携帯はあったんですか? どこかに落としたのなら、一緒に探しますが?」
「大丈夫だ。大方、軽トラの中だろう」
「なんだよ。携帯の意味ねぇじゃん」

 サラリとツッコむ青島くんを一睨みしてから、大樹ひろしげさんは、再び私の方へ視線を向けると、残念そうに言った。

「実は今日は、つばささんと焼き芋をしようと思って、用意してきてたんだがな」
「覚えててくれたんですか?」

 私の師は、いつもムスッとしていて、一見取っ付きにくそうに見えるが、実は、とても優しい人である。作業の合間に交わした言葉を覚えていて、時々こうして、サプライズのような事をする。今回も、私が焼き芋をしたことがないとポロリとこぼした言葉を覚えていて、用意をしてきてくれたようだ。

「せっかく持って来たんだし、大海ひろうみ相手で悪いが、楽しんでくれ」
「なんだよ。俺じゃ役不足みたいな言い方しやがって」
「そうだろ。おまえより、ワシの方が確実に上手い芋が焼ける」
「まぁ、そうだけど……」
「あの、私は、今度でも。青島くんも、この後、部活があると思いますし」
「ああ。部活か……。まぁ、今日くらい休め」

 大樹ひろしげさんは、祖父の権力を振りかざし、サラリと言う。そんな祖父に苦笑いを向けてから、私の方へ、申し訳なさそうな顔を見せた。

「俺、今日は、もともと部活休みなんだ。もう帰るだけで、特に予定もないから、付き合えるけど? その……白野さえ良ければ、だけど」
「そうなの?」
「なんだ。休みなら、何も問題ないな。先生にはワシから言っておくから、くれぐれも火の始末だけは気をつけろよ」

 なぜか控えめな青島くんと、なぜか楽し気な大樹ひろしげさんに、私は小首を傾げる。

 そうこうしている間に、大樹ひろしげさんによって、私と青島くんの焼き芋パーティー開催が決められていた。
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