雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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夏の章

夏の章(17)

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 妙に納得した声の私に、緑は意味ありげな視線を向けながら、またもや可笑そうに笑う。

「えっ? そうかな? 優しいと思うけど? 前に私が怪我した時も肩を貸してくれたし。いつも何かと心配して声を掛けてくれるよ」

 私の言葉に、緑は訳知り顔でうんうんと相槌を打つ。

「そう。ヒロくんは優しい」
「ほら、やっぱり」

 しかし、いつまでもにやけ顔のままの緑は、首を振って、私の指摘を否定した。

「でも、それは、私の知る限り、つばさちゃんにだけだよ~」
「え?」
「ヒロ君、他の女子には、別に優しくなんかないよ。木本に対して顔を顰めることはあっても、間に入って、木本に絡まれている子を助けてあげているところなんて見たことないもん。私も、助けてもらった事ないし~」

 冗談めかして唇を尖らせる緑の言葉が信じられなくて、私は目を丸くする。

 青島くんはいつだって優しい。初めて会った時も、さっきだって。それだけじゃない。下界の生活に慣れなくて、いつもワタワタとしている私に何気なく声を掛けてくれる。あの不思議な色の瞳でじっと私を見つめ、私の心を落ち着かせてくれる。

 そんな彼を優しくないと言う緑の言葉に、混乱していると、緑は、何かを言いたげに私の瞳を覗き込んだ。

「なかなかストレートだと思うよ。私は」
「えっ? 何が」

 緑の言葉の意味が分からず、首を傾げて問い返すと、緑は、予想していたかの様な呆れ顔を私に向ける。

「まぁ、そう来ると思ったよ~。相変わらず、つばさちゃんは、つばさちゃんだね~」
「えっ? 何? 緑ちゃん、どう言う事?」
「ふふ。いいの。いいの。まだお子ちゃまには早かった様だね~」

 目をパチクリとさせ、緑と傍らに静かに座っていた司書を交互に見やる。どうやら、司書は、私たちの会話から、内容を察した様で、ニコニコと微笑んでいた。

「司書先生~。緑ちゃんの言ってることって、どういう意味ですか?」
「う~ん。そうね。青島くんにとって、あなたは特別ってことかしら」
「特別?」

 ふふふと、にこやかに笑いながら、お茶のカップを手にする司書の言葉は、私の疑問を何も解消してくれない。

 混乱に眉根を寄せていると、緑が不思議そうな声を出した。

「それはそうと、さっきのつばさちゃんの言葉は、どういう意味だったの?」
「え? 何が?」
「ほら。私の話を聞いても、嫌いにならないでねって、あれ。話を聞く限り、嫌いになるも何も、つばさちゃんは木本の被害者なだけじゃない」
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