雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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夏の章

夏の章(15)

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「何それっ! 完全に嫌がらせじゃん!」

 私の話を聞いていた緑は、眉を吊り上げて声を荒げた。

「誰がやったか、わかってるの?」

 一緒に話を聞いていた司書も心配そうに顔を曇らせている。

 私は、ドライヤーの熱ですっかり乾いた服の裾をキュッと握り、コクリと頷いた。

「青島くんは、その人のこと木本って呼んでた」
「木本? 木本って、木本きもと徳香のりか?」
「名前は分からないけど、青島くんのことを大海ひろうみって名前で呼んでる子」

 私の答えに、緑は確信を持ったようだった。

「ヒロくんのことを名前で呼ぶ木本っていえば、アイツしかいないから、決まりね。でも、面倒くさいのに目を付けられたね。つばさちゃん」

 緑は、困ったっと言いたげに、眉尻を下げる。

「面倒くさいって、どういう事?」

 緑の指摘を、私より早く司書が拾う。

「木本徳香って、まぁ、何というか、ヒロくん……青島大海の追っかけなんですよ。昔から」
「昔から?」
「そうなんです。実は、私とヒロくんと木本徳香は、幼稚園からの腐れ縁でして」
「あら? 幼馴染なの?」

 司書の驚いた顔に、緑は顔を顰めて答える。

「まぁ、幼馴染といえば、そうなんでしょうけど……。私とヒロくんは、親同士が元々仲が良くて、昔から家族ぐるみの交流があるんです。昔は良く二人でヤンチャしてました」

 そう言って、二ヘラと笑う緑の笑顔の中には、いつものふわりとした感じと、どこか子供めいた天真爛漫な笑顔が共存していた。

 しかし、そんな笑顔をすぐに引っ込めて、緑は、顔を曇らせる。

「でも、木本とはあまり……私、あの子に目の敵にされてるのよね」
「目の敵?」
「そう」

 私は、緑の話がよく分からなかった。いつも元気で明るく、誰とでも直ぐに打ち解ける緑は、他人に不快感を与えない。

 そんな彼女の姿が素敵だと常々思っていて、私は、友人である緑に、実は、憧れを抱いているのだが。

「緑ちゃんは、誰とでも仲良く出来るのに、何であの子は?」
「あの子、昔からヒロくん一筋なの。だから、いつもヒロくんと遊んでいた私が邪魔だったんだと思う」
「それって……」

 それは、木本さんが私に嫌がらせをしてきた理由と同じだった。

「青島くんの周りをウロチョロして鬱陶しい……」

 木本さんに言われた言葉が、不意に口をついて出た。

 その言葉に、緑ちゃんは、苦笑いを浮かべる。

「まぁ、そんなところ。ってか、つばさちゃんから、そんな言葉聞きたく無いわ~」
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