雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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夏の章

夏の章(13)

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 ブワリと太腿の後ろが温かくなる。

「うわっ。ちょ、ちょっと待って。緑ちゃん。自分でやるから」

 突然の生暖かい風に体を捩りながら、緑からドライヤーを受け取ると、ドライヤーの風を、湿気をたっぷりと含んだ服に当てる。

 風をうけて、張り付いていた服が肌から剥がれると、不快感が薄らいだ。

 肌を温める風に、少し気持ちが緩む。

 すると、それを見計らっていたのか、手持ち無沙汰になり、近くの席に腰を下ろして、頬杖をつきながら私のことを見ていた緑が、口を開いた。

「それで?」
「うん?」

 緑の端的な質問の意味がわからず、首を傾げると、緑の視線の中には、心配の色が見え隠れしていた。

「つばさちゃんは、そんなにずぶ濡れになるまで、外で何してたの?」
「え? だから、花壇のお手入れを」
「……そんなわけないよね? 私には話せない事?」

 私の答えに一瞬口をつぐんだ緑は、つぶらな瞳を寂しそうに揺らす。

 そんな彼女を見て、私は、慌てて首を振った。

「違うよ。ただ、ちょっと話をしてただけ」
「ヒロくんと? そんなに濡れるまで? 違うか。ヒロくんなら、つばさちゃんをこんなに濡れさせたりしないか」
「あ、青島くんは、関係ないよ」

 彼に非がない事を伝えると、緑は、さらに怪訝そうに、眉を顰める。

「じゃ、そんなに濡れてまで、誰と話していたの?」

 緑の追求は止まらない。彼女が興味本位から、話を聞き出そうとしているわけではない事は分かっている。でも、あの黒くモヤモヤとしたものが、自身の心の内にあったなどと知られたくなくて、私は、言葉に詰まる。

 しかし、緑は、根気強く私が口を開くのを待っている。

 そんな私たちの間に、カチャリと小さな音を立てて、暖かそうな湯気を上げるカップが置かれた。

「葉山さん。そんなに詰め寄ったら、聞かれている方も、話しにくいんじゃないかしら? まずは、二人ともお茶でも飲んで落ち着きましょ」

 司書が苦笑い気味に、緑を嗜める。そんな司書に緑は肩をすくめてみせた。

「私、つばさちゃんのことが心配で……お茶、頂きます」

 顔を伏せ、シュンとしながら、カップを手に取る緑に司書は微笑みながら、今度は、私へと視線を向けた。

「あなたも、乾かしながらでいいから、お茶を飲んで。体が温まるから」
「はい」

 私は、司書に促され、緑の向かいの席に腰を下ろす。少々行儀は悪いが、ドライヤーを片手に、カップのお茶を一口飲むと、体の内側もほんのりと暖かくなった。
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