雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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夏の章

夏の章(8)

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 青島くんの冷たい声にもめげずに、木本さんは食い下がる。もしかしたら、こんなやり取りをこれまでにもしたことがあるのかもしれない。

「じゃあ、私、大海ひろうみのミーティングが終わるまで待ってる。だから、そのあと、一緒に……」
「もう、この際だからはっきりと言うけど」

 青島くんは、木本さんの言葉に、自身の言葉を被せる。

「俺は、木本とは一緒に帰らない。今日も。これからも。どれだけ誘われようと、一緒に帰ることはない。だからもう、俺を誘うのはやめてくれ!」

 青島くんはこれまでの溜まった思いを吐き出すかのように、勢いよく言い放つと、私の手を取り、クルリと踵を返す。

「待って。大海ひろうみ

 突然、背を向けられた木本さんは、しばらく、呆然としていたが、ハッと気が付くと、必死に青島くんを呼び止めた。しかし、青島くんは、振り返ることもなく、グイグイと私の手を引き歩いていく。

「ね、ねぇ。彼女、いいの?」

 あまりに突然の出来事に、私は戸惑いがちに声をかける。しかし、彼は、珍しく硬い表情をしたまま、頷いた。

「いいんだ。いつかは、はっきり言わなくちゃと思っていたから」
「そう……なの」

 彼のその言葉を聞いて、なぜだか私の騒がしかった心の内は、フッと静かになった。

 背後からは、まだ彼女の声がしている。

「ねぇ。待ってよ。大海ひろうみ! そんな子より、絶対、私と居た方が良いのに。ねぇってば!」

 彼女の声を聞いても、もう私の心はざわつかなかった。彼と繋いでいる手がほんのりと熱を帯びる。繋いだ温もりが心地良くて、このまま手を繋いでいたいと思った。

 しかし、繋いだ手を心のままに見つめていたら、自分の手の汚れが目についた。

「あの、ごめん。手……」

 ポツリと言った私の言葉に、青島くんは勢いよく視線を向けてから、パッと手を離した。

「お、おお。勢いで、つい……ごめん」

 謝りながら俯く青島くんに、私は慌てて言葉を重ねる。

「あ、えっと、違うの。その。私の手、土いじりをした後だったから汚れてて、その……ごめんね。手汚れちゃったね」
「あ? あ~。本当だ」

 自分の手のひらを見ながら、青島くんはニカリと笑う。

「大丈夫。こんなのは、洗えば良いから」

 そう笑った顔は、いつもの彼の笑顔だった。しかし、それは一瞬のことで、彼の表情はすぐに曇ってしまった。

「あの、白野。ごめんな」
「え? 何が?」
「木本の事。本当は何かされたんだろ?」
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