雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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夏の章

夏の章(4)

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 最後のレンガを置き終わった時には、空からはいくつもの雨粒が落ちてきていた。どうやら空は、私の作業が終わるのを待てなかったらしい。

 髪や服が湿気を含み、肌に貼り付いてくるのが鬱陶しかったが、私は、その場からなかなか動くことができなかった。

 暗く重たい気持ちで、修復が終わったばかりの花壇を見つめる。

 誰がこんなことをするのだろう?

 なぜ、こんなことをするのだろう?

 どんなに考えても、私にはわからない。ただ、心の中の黒い雲がどんどんと広がり、重みを増していることだけは、なんとなく分かる。とても嫌な気分だ。

「アーラ、作業が終わったなら、今日はもう帰ろうよ」

 修復作業に付き合って傍にいたフリューゲルに声をかけられても、その声がどこか遠くに感じられた。

 こんな気分はとても嫌だ。暗くて、重たい。自分の外に出してしまいたい。この黒いモヤに飲み込まれたくない。

 そう思うのに、頭上の雨雲がどんどんと黒さを増して、次第に雨を強く降らそうとするかのように、私の中の黒いモヤもどんどん大きくなっている気がする。

 こんな事は初めてだ。

 フリューゲルが言ったように、雲に良いも悪いもない。雲は雲だ。庭園ガーデンに住まう私たちは、それを知っている。

 それでも私は、あの黒雲が私を飲み込もうとするかのように広がっている事が、許せない。

 顔に沢山の雨粒を受けながら、頭上を見上げて、黒雲を追い払おうと念じてみる。そうすれば、私の中の黒いモヤも消えるかもしれない。そう思った。

 でも、そんなことをしたって、私には、空全体を覆うように広がった黒雲を追い払うなんて事は出来ないし、それどころか、雨は一層強くなるばかりだった。

「ねぇ。アーラ。もう帰ろうよ。僕は、雨でも濡れないけれど、今のアーラは、違うんでしょ?」

 見かねたようにフリューゲルが声をかけてくる。

「うん」

 私は、彼にようやく返事を返したけれど、顔は相変わらず上を向いていた。

 黒い雲から落ちてきた雨が、私の顔を打つ。まるで、私の中に侵入しようとするかのように、いく粒もの雨が私を打つ。

 私を打ち続ける雨は、私の中の黒いモヤを洗い流すどころか、私の中に黒いシミを作り、そのシミが、どんどん増殖を続けていく。

 もう私の中は、真っ黒になってしまったのではないだろうか。

 そんな気持ちになった頃、ピチャッと水溜りを踏む音がして、背後に人が来た気配がした。

 ノロノロと私が振り返ると、そこには、一人の女子生徒が立っていた。
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