雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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夏の章

夏の章(3)

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 その時は、野良犬の仕業くらいに思い、気にも留めていなかったのだが、次の日も、学校へ行ってみると、別の花壇が荒らされていた。

 花壇は、掘り返されていたり、踏み荒らされたり、囲いであるレンガが動かされていたり、様々な形で毎日攻撃を受け続けている。

 初めこそ、野良犬の仕業かと思ったのだけれども、こうも毎日毎日花壇を荒らし、ましてやレンガを動かすなんてことは、動物がやっているとは、とても思えない。

「……誰かがやったとしたら、どうしてこんなことするんだろうね」

 フリューゲルの声は、いつもよりも少しだけ低く響いて聞こえる。

「う~ん。なんでだろうねぇ」

 私たちNoelノエルは、他者に干渉しない。ましてや、誰かに攻撃を加えるなんてことをしたこともなければ、されたこともなかった。

 だから、何故このようなことをするのか、考えてもわからない。このような行動にどんな意味が込められているのか。

 天を仰ぐように見上げると、空一面を覆っていた灰色の雲は、その色を濃くしていた。

 黒いものをたくさん吸い込んで重さを増した雲。まるで私の心の中まで真っ黒にしてやろうとしているみたいに、それは下へ下へと広がってきていた。

 何となく、気持ちが重たくなってきたのは、あの雲のせいだろうか。

 私の中の雲を振り払うように、頭をぶんぶんと振ってみた。

「アーラ、何やってるの?」

 私の行動に、隣に立つフリューゲルが首を傾げる。

「う~ん。あの雲が、良くないのかなぁ。モヤモヤした感じがするの。フリューゲルは何か感じない?」
「雲? 雲に良いも悪いもないけど……」
「そうなんだけど……。でも、なんだか、重たい気持ちにさせられるというか……」
「う~ん。……雲に?」

 フリューゲルは、私の言っていることがよく分からないと言った風に、首を傾げながら、雲を見上げている。

 わかっている。フリューゲルが言うように、雲に良いも悪いもない。でも、あの灰色雲が、ものすごい速さで、辺りを暗くしているように、私の中でも真っ黒なものが広がっている気がするのだ。

 本当は、今すぐにでも、あの雲から逃げたい。これ以上、私の中が黒く染まらないように。でも、花壇の修復作業がまだ残っている。

 空はすっかり灰色雲に覆い尽くされ、行き場を無くした雲は、どんどんと下に降りて来ていた。今にも、雨が降り出しそうだ。

 それまでに、なんとか作業を終えたい。灰色雲に負けないように、私は、花壇修復の手を早めた。
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