雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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春の章

春の章(13)

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「あ、また、つばさちゃんが笑ってる。ねぇねぇ、今日は何かいいことがあったの?」
「い、いいこと? ……っていうか」

 自分の今の思いを口にするのは、なんだかくすぐったい感じがして、うまく言い表す言葉が見つからない。

「なになに?」
「その……二人と一緒にいると、胸の中が温かくなるっていうか、ほっこりするっていうか。そんな感じが、いいなぁと思ったの 」

  私の言葉に、二人は顔を見合わせた。お互いの顔を見て、なんだかくすぐったそうにしている。

「あ、あの、ごめん。変なこと言って」
「え~。なんで~。嬉しいのに~。ねぇ、ヒロくん?」 
「……うん」
「嬉しい?」

 私は、まだくすぐったそうに笑っている葉山さんの顔を、まじまじと見つめる。

「え~、嬉しいよ~。つばさちゃんと一緒。胸の中、ほっこりポカポカな感じだよ~」

 そう言うと、葉山さんはまた、くすぐったそうに、ふふっと笑った。

 嬉しい……か。

 庭園ガーデンにいたとき、新しいNoelノエルの誕生をいつも嬉しく思っていたけれど、今はそれよりも、もっと心が温かい気持ちでいっぱいになっている。それは、この二人との距離が近くなったからなのかな。

 Noelノエルは、互いの距離を保っている。それが、良いとか悪いとかではなくて、Noelノエルにはそれが当たり前のことなのだ。

 私も今まではそれが当たり前だった。でも、この温かい気持ちはとても心地いい。こんな気持ちを知らなかったなんて、今までちょっと損していた気分。この気持ちを、フリューゲルにも教えてあげたいな。本当に、フリューゲルはどこへ行ったのだろう。

 そう思っていたら、フリューゲルは、一人で校門の前に立っていた。

 彼は、やわらかな金色の日差しが集まる心地良さそうな陽だまりの中にいた。周りに比べると、そこだけがひと際明るいような気がする。

 その光の中に佇む彼が、以前とは少し違っていることに気がつき、私は目を見張った。

 Noelノエルであるはずのフリューゲルが、今まで一度も見せたことのない、満面の笑みを浮かべて私たちを見ている。

 私の見間違いかと思った。瞬きをして、もう一度確認してみる。

 やはり笑顔だ。

 青島くんと葉山さんの前だから、私からフリューゲルに声をかけることはできない。目を見張りつつ、無言で彼の傍らを通り過ぎるしかない私に、ふんわりと柔らかい言葉をフリューゲルがくれる。

「友達ができて、良かったね」

 私は、とびきりの笑顔を彼に向けると、二人の友人と肩を並べて校門をくぐった。
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