雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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春の章

春の章(12)

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 出会ったばかりの人から、有効な情報が得られるなんて思いもしなかった。これはもしかしたら、『学び』に一歩近づけたんじゃないのかな。

 そんな思いに、私が浸っていたときだった。

「実は、じいちゃんさ、……」
「つばさちゃ~ん、おはよ~」

 青島くんの言葉に被せるようにして、私たちが立ち止まっている路地の支流から、少々間延びした声が聞こえてきた。

 声の主は、葉山はやまみどりだ。彼女は眠たそうに瞼を擦りながら、私たちがいる路地へと合流した。

「補習、遅れちゃうよ~」

 同じクラスの彼女は、入学以来、何かと声をかけてくれる。あたふたしている私を見るのがおもしろいらしく、私のことをよく『天然』だと言って笑う。

 私がまだ下界での生活に慣れていないことを知らない彼女には、そう見えてしまうのかもしれない。でも、私としては、ただ日々を懸命に過ごしているだけなので、おもしろいと表現されることは少々不本意ではある。

 しかし、そこに悪意がないことは、彼女を見ていれば分かる。だから、私もあまり気にしないようにしている。

「おはよう、葉山さん」
「あ~あぁ、今日も『葉山さん』かぁ。『緑』でいいって……、うわっ!」

 私の隣に並んだ彼女は、私の顔を見るなり、目を見開いた。一体何だというのか?

「つばさちゃんの笑顔、初めて見たっ!!」

 えっ? 笑顔? 私が?

「かわいい~。ね! ヒロくん? ってアレ? ヒロくんじゃん! おはよ~」
「お、おう」
「ヒロくん、つばさちゃんと知り合いだったの?」
「ん~、まぁ、知り合いっていうか……」
「あっ、もしかして、二人付き合ってるとか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「じゃあ、なんでそんなにくっついてるの~?」

 彼女の口からは、ポンポンと弾むように言葉が出てくる。さっきまで眠たそうだったのに、どこかに切り替えスイッチでもあるのだろうか?

「白野が、怪我したんだよ。だから……」
「えっ? ウソ?」
「うん。ちょっとね。足首をひねったみたいなの」
「大丈夫? 学校まで歩けそう?」
「うん。平気。もう少しだしね」

 学校の正門はもうすぐそこだ。門の前に、誰かが立っているのが見える。

 あと少しの道のりを、私たちは三人並んで歩きだした。相変わらず青島くんは私に肩を貸してくれている。葉山さんも私の足を気にしてか、いつもよりゆったりと歩いているような気がする。

 二人のそばは、なんだかほわほわとして、心地がいい。

 二人に挟まれながら歩いていると、自然と顔の筋肉が緩む。
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