雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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春の章

春の章(8)

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 そう言うと、彼は私の目の前で、背を向けてしゃがんだ。

 一体どうしたのだろうか?

「あ、あの……?」
「何だよ。早く乗れよ。おぶって行くから」

 しゃがんで少し下を向いたまま、彼は、当たり前のようにそう言う。

 今、この男の子は、私を背負うと言ったの? 

 確かに、足は痛い。歩くとなると、かなり大変かもしれない。

 しかし、いくらなんでも見ず知らずの男の子に、そんなことまではしてもらえない。

 私は、戸惑いながらも、彼の申し出を断った。

「だ、大丈夫です。自分で歩けるので」
「でも、足、痛いんだろ? 本当に平気か?」
「だ、大丈夫……」

 強がる私の態度に、彼は、「はぁ」とため息をつきながら、仕方がないという風に立ち上がり、私の方へと向き直る。

 そして、しばらく黙って私を見つめていたが、何かを決意したかのように、小さくひとつ頷くと、今度は私の隣へ体をくっつけるようにして並び立った。

 突然のことに驚いて少し身を引いてしまう。

 しかし、彼は、そんな私の右腕を取ると、自分の右肩の方へ、私の腕を勢い良くぐるっと回した。引っ張られるようにして、私は、彼にさらに近づき、あっという間に、彼と私の間にあったわずかな距離もなくなった。

 突然の出来事に、胸がドキンと大きく波打つ。

「な、なにっ!?」
「何って、おぶって行くのは嫌なんだろ? だから、隣で支えて行くんだよ」

 そう言いながら、彼は自分の左手を、私の左脇腹あたりに当て、私の体を支えてくれる。

「な……なるほど」

 彼のあまりにも平然とした態度に、なんとなく納得してしまった。

 しかし、本当は、不意打ちの連続で、私の頭の中は真っ白。何も考えられずにいただけだ。

「ほら、行くぞ」

 思考回路がパンク寸前の私は、現状のあり様に対処することができず、半ば彼に引きつられるようにして歩きだした。

 この状況は、下界では当たり前のことなのか?

 考えなどまとまらないのに、グルグルと同じことを考え続けていると、彼の心配そうな声がした。

「おい、本当に大丈夫か? やっぱり頭とか打ってて、気分でも悪くなったか?」

 考えられない頭で、現状を必死に理解しようとしているうちに、私は俯いてしまっていた。

 どうやら、彼は私のそんな様子を心配してくれているようだ。

「あ、大丈夫です。……あの、肩ありがとうございます」

 慌てて首を振り、一応、お礼を言ってみる。

「怪我してるんだ。肩くらい貸すだろ、普通」
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