雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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春の章

春の章(7)

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 この花を見ていると、なんだか少しだけ庭園ガーデンを近くに感じられるような気がしていた。

 この花が咲いていることに気がついてから、ここは私のお気に入りの場所になった。

「フリューゲル、この花、見て」

 やっと追いついてきた、フリューゲルに声をかけた時だった。

 作業の車から、バチンという何かが切れる大きな音が聞こえたと思ったら、車に積んであった木材が、私目掛けて滑り落ちてきた。

 逃げなきゃ。

 そう思っても、身体がいうことをきかない。

 周りの全てがスローモーションになったかのように、ゆっくりと見える。私は、しゃがみこんだまま、ゆっくりと落ちてくる木材をただ見ているだけだった。

 ……もうだめだ。

 そう思った瞬間、急に辺りが明るくなり、白い羽に包まれた。

 これは翼? ……そうか、司祭様だ。司祭様が助けにきてくださったんだ。

 そんなことを思いながら、私は気を失った。





(……さ……つばさ……つばさ……)

 あれ? 遠くのほうで、誰かが呼んでる。誰の声だろう? フリューゲル? それとも司祭様?

 どうして私を呼ぶの?

「おい、白野つばさ!! しっかりしろっ」

 突然、そんなはっきりとした声に、私の意識は引き戻された。

 目を開けると、見慣れない瞳が私を覗き込んでいる。

「気がついたか。白野」
「あの……えっと……」
「立てるか?」
「あ、はい!」

 道端に倒れたままだった私は、差し出された大きな手に掴まりながら体を起こした。しかし、立ち上がろうとすると、左足に小さな痛みが走った。倒れた拍子に足首をひねったようだ。

「痛っ……」

 足首を押さえてしゃがみこんだ私を、見慣れない瞳が、再び心配そうに覗き込んできた。

 不思議な色の瞳だった。大きな黒い瞳の中に、深い青のような緑のような、なんだかとても落ち着く色味を帯びたその瞳が、心配そうに私を見ている。

 知らない男の子だ。

 ……いや、どこかであったことがあるような……。

 そんな気がして、私は、少しの間、彼の瞳に見入っていた。

「怪我したのか?」

 何も言葉を発しない私を心配したのか、不思議な色の瞳が、不意に陰ったように、暗くなった。

 慌てて私は、首を振る。

「あの……大丈夫です。少し、足を捻っただけですから」
「そっか」

 私の言葉に安心したのか、彼は「ほっ」と息を漏らすと、私の手をとり、そっと立たせてくれた。

 他に怪我が無いことを確認すると、「よしっ」と言って、まだ落ちたままだったかばんを拾い上げる。

「じゃ、急いで行くか」
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