雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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春の章

春の章(5)

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 考えてみれば、これまで常に一緒にいたフリューゲルと、またいつでも話ができるようになったのだ。それだけでも十分じゃないか。もう、私は一人じゃなくなったのだから。

 すっかり萎れてしまったフリューゲルに、私は明るく声をかけた。

「ねぇ、フリューゲル。下界からはね、どんなに空を見上げても、庭園ガーデンが見えないの。だから、これからは、あなたが私に庭園ガーデンでの出来事を教えてくれる?」
「うん。なんでも聞いてよ。と言っても、庭園ガーデンは、特に変化はないけどね」

 顔を上げたフリューゲルは、いつもの様に的確に事実を述べる。そう、彼はそれでいい。いつもの落ち着きを取り戻したようだ。

大樹様リン・カ・ネーションの様子はどう?」
大樹様リン・カ・ネーションは、相変わらずだよ。あれから蕾の成長は止まったまま。成長しきった蕾がいくつかあるから、今はまだNoelノエルは生まれてくるけど、蕾の数はだんだん減ってきてる」
「そうなの……。それについて司祭様は何か仰ってるの?」
「何も。他のNoelノエルたちには、このことを伝えていないみたいだし」
「やっぱり、大樹様リン・カ・ネーションを元に戻すには『学び』が必要なのかしら……」
「司祭様がそう仰るんだから、きっとそれしか方法はないんだよ」

 やっぱり、今、私がすべき事は『学ぶ』ことなのだろう。それは分かっている。司祭様の仰ることに、私たちはいつだって従ってきた。そうすることが当たり前なのだ。

 ただ、私はここで何を学べばいいのか、それが分からない。大樹を救う方法が、下界にはあるというのか?

「アーラ、どうしたの?」

 無口になった私を気遣うように、フリューゲルが声をかけてくれていたが、考え事に夢中になっていた私には、その声はほとんど聞こえていなかった。

 これから先、何をどうすれば良いのか。歩きながら必死で考えていると、塀に貼られたポスターが目に留まる。何かが心に引っかかり、私はポスターの前で立ち止まった。

 それは、大きな1本の木が中心にそびえていて、遠くのほうには豊に茂った森が広がっている写真だった。そして、スローガンが白い字で大きく書かれている。

“守ろう森林 増やそう豊な緑”

 そんなスローガン付きのポスターの発行元は『日本森林保護団体』というところらしい。

 中心の木はまるで、庭園ガーデンの大樹のように大きい。その大きな木をぼんやりと見つめているうちに、ふとある考えが浮かんできた。

「森林保護団体の人に会ってみようかな」
「どうして?」
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