雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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春の章

春の章(4)

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「見守ってるって、司祭様が仰ったでしょ。忘れちゃったかな?」
「見てたの?」
「うん。毎日、君のことを見ていたよ」

 その言葉を聞いた途端、なんだか、私の心の中でピンと張りつめていた糸のようなものが、急に緩んだような気がした。

 そっか。そうだよね。司祭様は、見守ってると仰ってくださったのだった。フリューゲルだって、こうやって来てくれたわけだし、私は一人じゃないんだよね。

 本当は、慣れない下界での生活はいつまで続くのだろうと考え始めると、答えが見つからなくて、眠れない夜もあったりした。私一人が、真っ暗な闇の中で立ち尽くしてしまって、みんなに置いていかれたような、そんな気がしていた。

 でも、そんなことを考えていたなんて、なんだか格好悪くて言いたくないから、つい何でも無いふりをする。

「ふ~ん。でも、来られるなら、なんでもっと早く来なかったのよ?」
「できることなら、僕も君の近くで少しでも役に立ちたいと思ったよ。でも、下界の生活に慣れるためにも、一カ月くらいは君一人で頑張らなきゃいけないって司祭様に言われたんだ」
「そう。司祭様のお考えなら、仕方ないわね」
「うん。だから僕は、毎日君を見守ることしかできなかった。でも、今日やっと司祭様から僕も下界に行くお許しを頂けたんだ」
「そっか。そうだったの。じゃ、これからはあなたもこっちで学ぶの? あなたのここでの名前はなんて言うの?」

 前のめりに問いかける私の言葉に、フリューゲルはまた俯いてしまう。

「学ぶのは君だけ」

 フリューゲルの答えを聞いて、私はあからさまに肩を落とした。

 もう、一人じゃない。二人ならなんとかなるかもしれない。そう思ったのに。

 フリューゲルの話をきいて、また少しだけ気持ちが重たくなった。結局、学ぶことは私一人の定めなのだろうか。大樹は私に何を学ばせたいのだろうか。

 重たい気持ちを表すように、ジトリとした視線をフリューゲルに向け、私は口を開く。

「じゃあ、あなたはこっちで何をするの?」
「これから君が、僕と話したいと思った時に話し相手になる……僕ができるのはそれだけなんだ」
「そう……なの」

 フリューゲルの答えに、言葉が重たくなる。そんな私の言葉に押し潰されるかのように、フリューゲルは項垂れた。

「ごめん。僕、何の役にも立たないね」
「そんなこと……」

 咄嗟に出た言葉だったが、それが口をついて出た事で、私は自分の気持ちを切り替える事が出来た。
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