雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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雲の上は、いつも晴れだった。 ~本編~

プロローグ(5)

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 司祭様は、そんなフリューゲルにそっと微笑むと、まだ呆然としている私に向き直り、そっと声をかけてくださる。

「アーラ、下界へ行ってみませんか?」

 私が、下界へ行くっ?

 司祭様のお言葉に、私は目を見開き、思わず上擦った声を出してしまった。

「で、ですが、司祭様。私は下界へ行き、何をすればよいのですか?」

 そんな私の目を見つめ返し、司祭様は冷静に答えてくださる。

「学ぶのです」
「何を?」
「それは、わたくしにも分かりません」

 そんな冷静に分からないと言われても……一体、私はどうすれば……?

 現状が理解できなさすぎて、思わず顔が引き攣る。

 すると、それまで考え込んでいたフリューゲルが、また司祭様へ質問した。

「あの、司祭様。質問をよろしいでしょうか?」
「はい。何でしょう。フリューゲル」
大樹様リン・カ・ネーションのお言葉には、『片翼を羽ばたかせよ』とありました。しかし、アーラにはまだ羽はありません。これは一体……?」
「それも、わたくしには分かりません」

 司祭様の答えに、フリューゲルの顔も心なしか強張って見える。他人に干渉しないNoelノエルでも、そこは双子の片割れ。私の思いと同調しているのかも知れない。

「とにかく、学ぶのです。アーラ。今、わたくしが貴方にお伝えできることは、それだけです」

 そう言って笑みを浮かべている司祭様のお顔も、心なしか無理をされているようで、いつもの優雅な雰囲気は、鳴りを潜めてしまっている。

 私は、フリューゲルに助けを求めた。

「フリューゲル、私、どうすればいいんだろう?」
「僕たちNoelノエルは、大樹様リン・カ・ネーションと、司祭様のお心に従うしかないよ……」

 双子Noelノエルで、いつも側にいたフリューゲルは、いつだって私を助けてくれた。しかし、そんな彼も、今は為す術なく頭を振る。

 私たちの困惑をよそに、司祭様は、急いでいるのか、話を無理矢理に切り上げてしまった。

「大丈夫ですよ。アーラ。わたくしとフリューゲルは、常に貴方を見守っていますからね」
「あの……、いえ……、そう言う事ではなくてですね……」
「では、アーラ。しっかり学ぶのですよ」
「えっ……。あ、ちょっと……。司祭様……」

 司祭様は、私の言葉も聞かず、大樹に祈りを捧げ始める。すると、突然、私の足元にあった白い地がぱっくりと割れた。

「ああ、忘れるところでした。貴方の下界でのお名前は、『つばさ』ですからね。お忘れなきように」

 司祭様のそんなお言葉を、薄れ行く意識の中で聞きながら、私はみるみる下界へと落ちていった。
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