雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
14 / 124
雲の上は、いつも晴れだった。 ~本編~

プロローグ(5)

しおりを挟む
 司祭様は、そんなフリューゲルにそっと微笑むと、まだ呆然としている私に向き直り、そっと声をかけてくださる。

「アーラ、下界へ行ってみませんか?」

 私が、下界へ行くっ?

 司祭様のお言葉に、私は目を見開き、思わず上擦った声を出してしまった。

「で、ですが、司祭様。私は下界へ行き、何をすればよいのですか?」

 そんな私の目を見つめ返し、司祭様は冷静に答えてくださる。

「学ぶのです」
「何を?」
「それは、わたくしにも分かりません」

 そんな冷静に分からないと言われても……一体、私はどうすれば……?

 現状が理解できなさすぎて、思わず顔が引き攣る。

 すると、それまで考え込んでいたフリューゲルが、また司祭様へ質問した。

「あの、司祭様。質問をよろしいでしょうか?」
「はい。何でしょう。フリューゲル」
大樹様リン・カ・ネーションのお言葉には、『片翼を羽ばたかせよ』とありました。しかし、アーラにはまだ羽はありません。これは一体……?」
「それも、わたくしには分かりません」

 司祭様の答えに、フリューゲルの顔も心なしか強張って見える。他人に干渉しないNoelノエルでも、そこは双子の片割れ。私の思いと同調しているのかも知れない。

「とにかく、学ぶのです。アーラ。今、わたくしが貴方にお伝えできることは、それだけです」

 そう言って笑みを浮かべている司祭様のお顔も、心なしか無理をされているようで、いつもの優雅な雰囲気は、鳴りを潜めてしまっている。

 私は、フリューゲルに助けを求めた。

「フリューゲル、私、どうすればいいんだろう?」
「僕たちNoelノエルは、大樹様リン・カ・ネーションと、司祭様のお心に従うしかないよ……」

 双子Noelノエルで、いつも側にいたフリューゲルは、いつだって私を助けてくれた。しかし、そんな彼も、今は為す術なく頭を振る。

 私たちの困惑をよそに、司祭様は、急いでいるのか、話を無理矢理に切り上げてしまった。

「大丈夫ですよ。アーラ。わたくしとフリューゲルは、常に貴方を見守っていますからね」
「あの……、いえ……、そう言う事ではなくてですね……」
「では、アーラ。しっかり学ぶのですよ」
「えっ……。あ、ちょっと……。司祭様……」

 司祭様は、私の言葉も聞かず、大樹に祈りを捧げ始める。すると、突然、私の足元にあった白い地がぱっくりと割れた。

「ああ、忘れるところでした。貴方の下界でのお名前は、『つばさ』ですからね。お忘れなきように」

 司祭様のそんなお言葉を、薄れ行く意識の中で聞きながら、私はみるみる下界へと落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
父の失踪から七年、失踪宣告がなされて、田中さくらは母とともに母の旧姓になって母の実家のある堺の街にやってきた。母は戻ってきただが、さくらは「やってきた」だ。年に一度来るか来ないかのお祖父ちゃんの家は、今日から自分の家だ。 そして、まもなく中学一年生。 自慢のポニーテールを地味なヒッツメにし、口癖の「せやさかい」も封印して新しい生活が始まてしまった。

後宮の下賜姫様

四宮 あか
ライト文芸
薬屋では、国試という国を挙げての祭りにちっともうまみがない。 商魂たくましい母方の血を強く譲り受けたリンメイは、得意の饅頭を使い金を稼ぐことを思いついた。 試験に悩み胃が痛む若者には胃腸にいい薬を練りこんだものを。 クマがひどい若者には、よく眠れる薬草を練りこんだものを。 饅頭を売るだけではなく、薬屋としてもちゃんとやれることはやったから、流石に文句のつけようもないでしょう。 これで、薬屋の跡取りは私で決まったな!と思ったときに。 リンメイのもとに、後宮に上がるようにお達しがきたからさぁ大変。好きな男を市井において、一年どうか待っていてとリンメイは後宮に入った。 今日から毎日20時更新します。 予約ミスで29話とんでおりましたすみません。

翠碧色の虹

T.MONDEN
ライト文芸
虹は七色だと思っていた・・・不思議な少女に出逢うまでは・・・  ---あらすじ--- 虹の撮影に興味を持った主人公は、不思議な虹がよく現れる街の事を知り、撮影旅行に出かける。その街で、今までに見た事も無い不思議な「ふたつの虹」を持つ少女と出逢い、旅行の目的が大きく変わってゆく事に・・・。 虹は、どんな色に見えますか? 今までに無い特徴を持つ少女と、心揺られるほのぼの恋物語。 ---------- ↓「翠碧色の虹」登場人物紹介動画です☆ https://youtu.be/GYsJxMBn36w ↓小説本編紹介動画です♪ https://youtu.be/0WKqkkbhVN4 ↓原作者のWebサイト WebSite : ななついろひととき http://nanatsuiro.my.coocan.jp/ ご注意/ご留意事項 この物語は、フィクション(作り話)となります。 世界、舞台、登場する人物(キャラクター)、組織、団体、地域は全て架空となります。 実在するものとは一切関係ございません。 本小説に、実在する商標や物と同名の商標や物が登場した場合、そのオリジナルの商標は、各社、各権利者様の商標、または登録商標となります。作中内の商標や物とは、一切関係ございません。 本小説で登場する人物(キャラクター)の台詞に関しては、それぞれの人物(キャラクター)の個人的な心境を表しているに過ぎず、実在する事柄に対して宛てたものではございません。また、洒落や冗談へのご理解を頂けますよう、お願いいたします。 本小説の著作権は当方「T.MONDEN」にあります。事前に権利者の許可無く、複製、転載、放送、配信を行わないよう、お願い申し上げます。 本小説は、下記小説投稿サイト様にて重複投稿(マルチ投稿)を行っております。 pixiv 様 小説投稿サイト「カクヨム」 様 小説家になろう 様 星空文庫 様 エブリスタ 様 暁~小説投稿サイト~ 様 その他、サイト様(下記URLに記載) http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm 十分ご注意/ご留意願います。

にほいち47

多摩みそ八
ライト文芸
フィクション旅行ライトノベル 女子大生4人がバイクで日本一周するお話です

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

ひねくれロジック!

ひぐらしゆうき
ライト文芸
大学内で今世紀一の捻くれ者とまで言われる程の捻くれ者で、自身も『この世に自分ほど捻くれた者はいない』と豪語する自他共に認める捻くれ者である山吹修一郎は常に捻くれまくった脳みそを使って常に捻くれたことを画策している。 そんな彼の友人である常識的な思考を持つごく普通の大学生である矢田健司はその捻くれた行動を止めるために奔走し、時には反論する毎日を送っている。 捻くれ者と普通の者。この二人の男による捻くれた学生の日常物語!

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...