12 / 124
雲の上は、いつも晴れだった。 ~本編~
プロローグ(3)
しおりを挟む
開花儀礼を終えると、司祭様が私たちに声をかけてきた。
「アーラ、フリューゲル、貴方方にお話があります」
「はい。何でしょうか? 司祭様」
私たちは声を揃えて答える。
「ここではなんですので、大樹様のお側でお話しましょうね」
司祭様は庭園で唯一、羽と金の環をお持ちの天使様。毎日の開花儀礼を執り行うのも、私たちNoelを取りまとめるのも、司祭様だ。
「フリューゲル、今日の開花はどうでしたか?」
「はい。司祭様。僕たちの仲間がまた一人増えました。とても、すばらしいことです」
「アーラ、貴方はどうですか?」
「はい。司祭様。私も、とてもすばらしいことだと思います」
「そうですね。仲間が増えることはとてもすばらしいことです。ですが……」
司祭様は言葉を切り、大樹を仰ぎ見た。そんな司祭様のお姿は、まるで、下界の人が困っているときのような、なにか、お顔に影を落とされているような感じにみえる。こんなお顔をなさるなんて、天使様には、下界の人のような感情があるのだろうか。
「どうかされたのですか? 司祭様」
フリューゲルが声をかけると、司祭様は私たちに向き直り、こう切り出した。
「……時期が来たようですね。お二人とも、大樹様を御覧なさい」
「大樹様がどうかされたのですか?」
私には、司祭様が何を仰りたいのか、全然分からない。司祭様は、何をお話になりたいのだろうか? 大樹はいつものように、雄大に聳えているではないか。
そのとき、私の隣で黙って大樹を見上げていたフリューゲルが、突然「あぁっ」と小さな声をあげた。
「司祭様。大樹様の蕾が……」
フリューゲルが指すほうを見ると、大きく茂った大樹の蕾の中のいくつかが枯れ始めていた。遠くからでは分からなかったが、成長が止まってしまったのではないかと思われる蕾もある。
こんなことは今まで見たことがない。大樹はどうしてしまったのか?
「司祭様。大樹様はどうなされたのですか? まさか、お弱りに……?」
「大樹様は、時が来たことを、私たちにお知らせくださっているのです」
「時が来たこと?」
何が起こるというのか? この平穏な世界に、天変地異でも起こるというのか?
「アーラ、貴方は今日も下界を見ていましたね?」
「えっと……。あの……」
答えに詰まっていると、司祭様は、私からフリューゲルに質問を移した。
「フリューゲル。アーラは、今日も下界を見ていましたか?」
「はい。司祭様。……しかし、それはいけないことでしょうか?」
「アーラ、フリューゲル、貴方方にお話があります」
「はい。何でしょうか? 司祭様」
私たちは声を揃えて答える。
「ここではなんですので、大樹様のお側でお話しましょうね」
司祭様は庭園で唯一、羽と金の環をお持ちの天使様。毎日の開花儀礼を執り行うのも、私たちNoelを取りまとめるのも、司祭様だ。
「フリューゲル、今日の開花はどうでしたか?」
「はい。司祭様。僕たちの仲間がまた一人増えました。とても、すばらしいことです」
「アーラ、貴方はどうですか?」
「はい。司祭様。私も、とてもすばらしいことだと思います」
「そうですね。仲間が増えることはとてもすばらしいことです。ですが……」
司祭様は言葉を切り、大樹を仰ぎ見た。そんな司祭様のお姿は、まるで、下界の人が困っているときのような、なにか、お顔に影を落とされているような感じにみえる。こんなお顔をなさるなんて、天使様には、下界の人のような感情があるのだろうか。
「どうかされたのですか? 司祭様」
フリューゲルが声をかけると、司祭様は私たちに向き直り、こう切り出した。
「……時期が来たようですね。お二人とも、大樹様を御覧なさい」
「大樹様がどうかされたのですか?」
私には、司祭様が何を仰りたいのか、全然分からない。司祭様は、何をお話になりたいのだろうか? 大樹はいつものように、雄大に聳えているではないか。
そのとき、私の隣で黙って大樹を見上げていたフリューゲルが、突然「あぁっ」と小さな声をあげた。
「司祭様。大樹様の蕾が……」
フリューゲルが指すほうを見ると、大きく茂った大樹の蕾の中のいくつかが枯れ始めていた。遠くからでは分からなかったが、成長が止まってしまったのではないかと思われる蕾もある。
こんなことは今まで見たことがない。大樹はどうしてしまったのか?
「司祭様。大樹様はどうなされたのですか? まさか、お弱りに……?」
「大樹様は、時が来たことを、私たちにお知らせくださっているのです」
「時が来たこと?」
何が起こるというのか? この平穏な世界に、天変地異でも起こるというのか?
「アーラ、貴方は今日も下界を見ていましたね?」
「えっと……。あの……」
答えに詰まっていると、司祭様は、私からフリューゲルに質問を移した。
「フリューゲル。アーラは、今日も下界を見ていましたか?」
「はい。司祭様。……しかし、それはいけないことでしょうか?」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

立花家へようこそ!
由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・――――
これは、内気な私が成長していく物語。
親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。

ママは週末VTuber ~社長が私のファンですか?~
富士とまと
ライト文芸
深山結衣(38):高校生の息子を持つシングルマザー
東御社長(40):隠れオタクのイケメン/
深山はある日息子に頼まれてVチューバーデビューをすることに。中堅建築会社で仕事をしながら週末は生放送。取引先の女嫌いの東御社長になぜか目をつけられて……。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

【完結】離婚の危機!?ある日、妻が実家に帰ってしまった!!
つくも茄子
ライト文芸
イギリス人のロイドには国際結婚をした日本人の妻がいる。仕事の家庭生活も順調だった。なのに、妻が実家(日本)に戻ってしまい離婚の危機に陥ってしまう。美貌、頭脳明晰、家柄良しの完璧エリートのロイドは実は生活能力ゼロ男。友人のエリックから試作段階の家政婦ロボットを使わないかと提案され、頷いたのが運のツキ。ロイドと家政婦ロボットとの攻防戦が始まった。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる