雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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雲の上は、いつも晴れだった。 ~本編~

プロローグ(1)

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 ピンク、緑、赤や白。カラフルな色が、たくさん混ざる下界には、いつだっていろんな変化がある。晴れの青、曇りのグレー、しとしと雨の水色、雷雨の黒や黄色……。天気も下界を彩る変化の一つだ。

 いつだったか、下界に降る雨は、誰かが流した涙だと聞いたことがある。誰かが泣いた分だけ、下界には彩りの雨が降る。

 だけど、ここには雨なんて降ったことがない。

 見渡す限り、白と青の世界。それが私のいる世界、天界の最下層にある庭園ガーデン庭園ガーデンは、雲のずっと上にあって、いつでも青空が広がっている。まるで凪の海みたいに静かな空間が、どこまでもどこまでも続いていて、変化も終わりもない世界。

 そんな白と青の世界に住む住人たちを、下界では『天使』なんて呼んだりしているようだ。だけど私は、天からの使者ってわけじゃない。だから、私たちを『天使』と言うのは間違っている。

 この庭園ガーデンで暮らす者はNoelノエルと呼ばれている。Noelノエルと呼ばれる私たちは、いわゆる天使未満の存在だ。

 下界では、雲の上で暮らす者には、羽があり、金のが頭上で輝いていると思われているけど、本当は、みんながその様な姿ってわけじゃない。羽や金の環があるのは、ある経験をして成長した者のみ。それが、下界の人が言う『天使』と言う存在。天使未満の私には、羽もなければ、光輝く環もない。見た目は、下界の人とほとんど変わらない。

 いつかは私にも、羽が生えるかもしれないけれど、それがいつなのかはわからない。なぜなら、天使となった者たちは、みんな庭園ガーデンから姿を消してしまうから。残された私たちNoelノエルは、ある経験がいったいどんな事なのか、いつが自分の成長時期なのか、誰も知ることができないのだ。

 ただお一人だけ、羽と金の環を持つ、いわゆる、天使のイメージがピッタリな天使様が、いつも私たちのお側にいてくださるけれど、そのお方に、どうすれば私たちが成長できるのかと伺っても、「経験すればわかることだから」と、多くは語って下さらない。

 そのお方に、ずいぶん前に教えて頂いたことがある。Noelノエルと下界の人は、見た目は同じでも、大きく違う事がある。それは、庭園ガーデンには涙を流す者がいないってこと。白と青の世界の住人は、変化のない天気と同じ。いつも変わらない。怒る事も、楽しむ事も、悲しむ事もない。

 ただ、喜ぶ事はほんの少しだけある。でもそれも、下界の人が見たら、喜んでいるのか分からないくらいの喜び方なのだけれど。
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