雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

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雲の上は、いつも晴れだった。 ~エピソード0~

~エピソード0~ 3

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 風もないのに、大樹に咲くベルの花が一斉に揺らぎ始めました。そして、シャラン、シャラランと、これまでにこの庭園ガーデンで聞いたことのない、澄んだ鈴の音に似た音色が、庭園ガーデン中に響き渡ります。どうやら、ベルの花がそれぞれ揺れることで鳴り響いているようでした。

 このような出来事は、わたくしが司祭職について二百年、一度も経験のないことでした。しかし、経験がないからと言って、司祭であるわたくしが、慌てる訳にはいきません。一度、大きく深呼吸をして、周りのNoelノエルたちの様子を伺うと、ほとんど感情表現をすることのない彼らの間に、少々騒めきが起きていました。

 この出来事は、Noelノエルたちを大いに動揺させるほどの出来事だったのです。

 鈴の音が庭園ガーデンに鳴り響く中、わたくしは気を引き締めて、大樹を、ベルの花を、そして、明滅を繰り返し、間も無く開花するであろう蕾を見つめました。

 しばらくすると、ベルの花たちは、シャラン、シャラランという鈴の音の余韻だけを残して、揺れるのを止めました。

 すると、今度は厳かで堂々たる声が、まるでわたくしの頭の中へ直接流れ込むように響きました。

『爾に告ぐ。我、彼の者らを受容せし。時、来たりしとき、片翼を学ばせよ。時、来たりしとき、片翼を羽ばたかせよ。然らば、大成果たせし時、彼の者ら、新しき道を得たり』

 その言葉の後には、静寂が訪れ、庭園ガーデンはいつもの様子を取り戻したかに思われました。

 しかし、この静かな庭園ガーデンで起きた小さな小さな騒動は、これで終わりではありませんでした。
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