雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
2 / 124
雲の上は、いつも晴れだった。~prequel・プリクエル~

ヒカリサスホウヘ

しおりを挟む
ぷかぷかと浮かぶ。

私は一人、暗い水の中を漂う。

私が手をしっかりと繋いでいなかったばかりに、私は君とはぐれてしまった。

暗闇の中、私は必死で手を伸ばし、君の手を探したけれど、どんなに手を伸ばしても、君に触れることができない。

どうして……

どうして……

今までずっと一緒にいたのに。これからもずっと一緒にいると思っていたのに。

二人で並んでぷかぷかと浮いていた時は、君の肘が当たって、ここは狭いと思っていた。だけど、私一人には広すぎる。

戻っておいでよ。

また一緒に過ごそうよ。

一人は寂しい。

声を上げて泣きそうになった時、暗い水の中に一筋の光が差した。

光の向こうから、私は呼ばれたような気がした。

早く、出ておいでと。

私と君に、いつも語り掛けてくれている優しい声が、私のことを呼んでいる。

私は、あの声の元へ行ってもいいだろうか。

行きたい。

会いたい。

でも、君と離れるなんて、できるわけがない。

だって、私と君は一心同体なんだから。

ねぇ、どこへ行ってしまったの?

あの光の先へ、一緒に行こうよ?

もう一度、私は手を伸ばして、君の手を探す。

今度は、君の手に触れた気がした。

君の声が聞こえた気がした。

大丈夫。心配しないで。僕はいつだって君のそばにいるよと。

いつものように、私の手をしっかりと握り返してくれた。そんな気がした。

これで一緒に、光の向こう側へ行けるね。

喜ぶ私の手を放し、君は私の背中を力いっぱい押す。

私は光の海流に乗った。

私は、君に手を伸ばすけれど、君は笑顔で手を振った。

また君の声が聞こえた気がした。

僕は、神様に呼ばれたんだ。だから、君とは一緒に行けないと。

でも、大丈夫。僕はいつだって君のそばにいるからと。

光の海流は、私だけを乗せて流れていく。

どんなに手を伸ばしても、もう君の手を掴むことはできない。

私の流した涙がいくつもの泡沫となり、暗い水中をぷかぷかと漂う。

君はそのうちの一つを両手で掬って、大切そうに胸に抱いた。

君の姿が離れていく。

そんな物を大切にするくらいなら、私と一緒に居ればいいのに。

力の限り叫ぼうとしたその時、私の周りがとても眩しく輝いた。

眩しくて眩しくて、私は、目をギュッと瞑ったまま、両手を固く握り、大きな声で泣いた。

君が私のそばに居られないなら、私が君のそばに行くよ。

神様、お願い。私たちを引き離さないで。

私は大きな声で泣きながら、大粒の涙を流した。

涙は、スッと胸へ流れて消えていく。

私の小さなハートが涙でいっぱいになった時、初めての声を聞いた気がした。

仕方がないな。お前にチャンスをやろうと。

もう少しの間だけ、一緒にいるがいいと。

私のハートに溜まった涙は、キラキラとした塊となり、暗い水中へと戻っていった。

私は泣くのをやめた。

耳元であの優しい声がした。

泣き止んだのね。少し眠りなさい。次に目を覚ましたときには、笑顔を見せてね。

その声の温かさに包まれながら、私は眠りについた。

もう、ぷかぷかと浮かんではいなかった。


**************************************


本編に入る前に、いきなりのスピンオフでした☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

次話もスピンオフです。『天使の筆録 ~雲の上は、いつも晴れだった。 エピソード0~』

是非ともお付き合いください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

後宮の下賜姫様

四宮 あか
ライト文芸
薬屋では、国試という国を挙げての祭りにちっともうまみがない。 商魂たくましい母方の血を強く譲り受けたリンメイは、得意の饅頭を使い金を稼ぐことを思いついた。 試験に悩み胃が痛む若者には胃腸にいい薬を練りこんだものを。 クマがひどい若者には、よく眠れる薬草を練りこんだものを。 饅頭を売るだけではなく、薬屋としてもちゃんとやれることはやったから、流石に文句のつけようもないでしょう。 これで、薬屋の跡取りは私で決まったな!と思ったときに。 リンメイのもとに、後宮に上がるようにお達しがきたからさぁ大変。好きな男を市井において、一年どうか待っていてとリンメイは後宮に入った。 今日から毎日20時更新します。 予約ミスで29話とんでおりましたすみません。

翠碧色の虹

T.MONDEN
ライト文芸
虹は七色だと思っていた・・・不思議な少女に出逢うまでは・・・  ---あらすじ--- 虹の撮影に興味を持った主人公は、不思議な虹がよく現れる街の事を知り、撮影旅行に出かける。その街で、今までに見た事も無い不思議な「ふたつの虹」を持つ少女と出逢い、旅行の目的が大きく変わってゆく事に・・・。 虹は、どんな色に見えますか? 今までに無い特徴を持つ少女と、心揺られるほのぼの恋物語。 ---------- ↓「翠碧色の虹」登場人物紹介動画です☆ https://youtu.be/GYsJxMBn36w ↓小説本編紹介動画です♪ https://youtu.be/0WKqkkbhVN4 ↓原作者のWebサイト WebSite : ななついろひととき http://nanatsuiro.my.coocan.jp/ ご注意/ご留意事項 この物語は、フィクション(作り話)となります。 世界、舞台、登場する人物(キャラクター)、組織、団体、地域は全て架空となります。 実在するものとは一切関係ございません。 本小説に、実在する商標や物と同名の商標や物が登場した場合、そのオリジナルの商標は、各社、各権利者様の商標、または登録商標となります。作中内の商標や物とは、一切関係ございません。 本小説で登場する人物(キャラクター)の台詞に関しては、それぞれの人物(キャラクター)の個人的な心境を表しているに過ぎず、実在する事柄に対して宛てたものではございません。また、洒落や冗談へのご理解を頂けますよう、お願いいたします。 本小説の著作権は当方「T.MONDEN」にあります。事前に権利者の許可無く、複製、転載、放送、配信を行わないよう、お願い申し上げます。 本小説は、下記小説投稿サイト様にて重複投稿(マルチ投稿)を行っております。 pixiv 様 小説投稿サイト「カクヨム」 様 小説家になろう 様 星空文庫 様 エブリスタ 様 暁~小説投稿サイト~ 様 その他、サイト様(下記URLに記載) http://nanatsuiro.my.coocan.jp/nnt_frma_a.htm 十分ご注意/ご留意願います。

So long! さようなら!  

設樂理沙
ライト文芸
思春期に入ってから、付き合う男子が途切れた事がなく異性に対して 気負いがなく、ニュートラルでいられる女性です。 そして、美人じゃないけれど仕草や性格がものすごくチャーミング おまけに聡明さも兼ね備えています。 なのに・・なのに・・夫は不倫し、しかも本気なんだとか、のたまって 遥の元からいなくなってしまいます。 理不尽な事をされながらも、人生を丁寧に誠実に歩む遥の事を 応援しつつ読んでいただければ、幸いです。 *・:+.。oOo+.:・*.oOo。+.:・。*・:+.。oOo+.:・*.o ❦イラストはイラストAC様内ILLUSTRATION STORE様フリー素材

推理は日常の中で

終点ーシュウテンー
ライト文芸
ちょっとばかし好奇心旺盛な女子高生「如月 碧(きさらぎ あおい)」。 彼女を中心にして巻き起こるちょっとした事件を、師匠である「太宰幸太朗(だざい こうたろう)」やクラスメイトであり探偵部の部員である「鳴瀨芽衣(なるせ めい)」達と協力して、解決していく日常?的な物語。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...