下着泥棒にご注意!

田古みゆう

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下着泥棒にご注意!(3)

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 しかし一晩経ってみると、興奮と後悔の中にはある種のスリルも伴っていることに気がついた。

 パンツを顔の前で広げ、何にそんなに胸を躍らせているのかと考える。そして、なんとも言えないこの緊張感は、まるでジェットコースターを終えた後のように、やり終えたという脱力と解放感に似ているのだと思った。

 一種のスリル系アトラクションを体験したのだと思った時、私は友人にパンツを返さなくても良いのではないかと、自分本位な考えが閃いた。たかがパンツ一枚。無くなったところで、さして生活に困ることはないだろう。それにこれは、私がアトラクションをした結果手にできた戦利品なのだ。記念に手元に残しておきたいと、そう思った。そして、私は友人にパンツを返すことをやめた。

 その後も彼女との友人関係は何事もなかったかのように続けた。彼女はやはりパンツが一枚無くなったことには気づいていなかったのか、その後も特に気に病んだ素振りは見せず、私の心の中にほんの少しだけ残っていた罪悪感も次第に霧散していった。

 戦利品は机の一番下の引き出しに大切にしまっていた。何かあると机の引き出しを開ける。すると、引き出しからふわりと花の香りが匂い立つようになり、私はその香りで波立った心を落ち着けていた。

 しかし、時間が経つうちにだんだんとその香りはしなくなってしまった。試しに自分の洗い立てのパンツも引き出しへ入れてみたのだが、彼女のパンツが放っていた香りとは何かが違い、たいして私の気持ちを落ち着かせる効果は無かった。

 それではと、彼女のパンツを自宅の洗濯洗剤でこっそりと手洗いしてみた。自分のパンツよりは幾分かいい匂いを放っているような気がしたが、それでも初めて手にした時のような、あの花のような匂いではなくなってしまい、私はがっかりすることになった。

 しかしそれでも、私のパンツよりはいい匂いであることには変わりないので、やはり彼女のパンツだけを引き出しに大切に入れていた。

 そんな新たな匂いもまたしなくなった頃、私は散歩がてらにフラフラと歩いていて、あの懐かしい香りを嗅いだ。薄らと香るその匂いの出どころをキョロキョロと探すと、ある家の庭先で洗濯物がヒラヒラと風に揺られていた。

 大きく息を吸い込んでみる。間違いない。あのパンツの匂いだ。そう思った私の胸は、突如として高鳴り出した。素早く辺りに視線を走らせる。道端には誰もいない。そっと家の様子に耳を澄ます。
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