もう少しの、その先に

田古みゆう

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7.電話にて

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「もしもし、桜です。明日の予定変更ですか?」
“あ、えっと、予定に変更はないよ。ただ……”

 電話の向こうで佐藤が言いにくそうに、片頬を搔いている姿が目に浮かぶ。

「何? 大変なこと?」
“大変というか……明日の現場なんだけど、俺、いないから”
「あら、そう。わかった。それで、代わりのマネージャーは、誰か来るの?」

 佐藤の淡々とした物言いに、こちらも業務連絡よろしく、確認すべきことだけを聞く。

“いや、それが……代わりが付かなくて。悪いんだけど、1人で頼む”
「そうなの。まぁ、いいわ。1日くらい、自分で何とかするわ」
“……”
「ちょっと聞いてる? 話それだけなら、もう、切るわよ」

 電話越しに黙る佐藤を訝しく思いながら、声をかけると、何かを決意したかのような息をのむ音が鼓膜に響いた。

“それが、明日だけじゃないんだ”
「明後日も、1人で現場に行くってこと?」
“……そうだ。明日も、明後日も、たぶん、しばらくは、そうなる……”
「ちょっと、それどういうこと?」

 突然の話に、私は声を荒げた。その声に、礼美たちは目を丸くしていたが、何処か訳知り顔で、お互いの顔を見合わせている。

“俺は、桜の担当から外れることになった”
「なん……」
“俺、もう、桜のそばにいられないんだ。つらいんだ。だから、さっき事務所も辞めてきた”
「何それ!?」
“社長は、分ってくれたよ。俺の気持ち。いつか表に出るよりは、いいって。賢明な判断だって、了承してくれた。ただ、急なことだから、どのマネージャーも手いっぱいで、代わりはすぐにはつけられないってことだった。悪いな”
「ちょっと、どういうこと? 私、何かした?」

 佐藤の言葉の意味が分からず、私は、ただ焦るばかりだ。

“桜は何も悪くないよ”
「うそよ。私が嫌になったから、辞めるのね。どこがダメなの? 言って。直すから」
“桜はそのままでいい。でも、強いて言うならば、これを機にもう少し、自分で紺野桜のプロデュースをするようになって”
「無理よ。そんなの……」
“キミならできる。俺が選んだキミならね”
「ちょ……」
“愛してるよ、桜。これからも、ずっと応援してるからね”

 そんな言葉を最後に、佐藤との繋がりはあっけなく切れてしまった。

 それから、今日まで、彼と繋がることはできていない。それでも、彼が最後にくれた言葉を信じて、私は今日もとびきりの笑みを湛え、カメラの前に立っている。

 いつか、再び彼の隣に立てる日が来ることを願って……





完結しました☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
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