スターチスを届けて

田古みゆう

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エピローグ

エピローグ p.2

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 彼らが行きつけにしているカフェは、以前はアイスクリーム屋だった場所にある。学生の頃は良く通っていたが、年を重ねるごとに店から足が遠退き、気付けば、店が変わっていた。

 以前は、若者向きの原色の壁が目立つ明るい印象の店だったが、新たにカフェとなったその場所は、しっとりと落ち着いた趣の外観に変わっていた。晴れの日には、日射しをたっぷりと味わうことができるテラス席が設けられ、ゆったりとした休日の時間を過ごすことができるその場所は、優のお気に入りの場所だ。

 店に着いた浩志は、優の姿を探すが、まだ来ていないようだったので、彼女のために、テラス席を選び、その一角に腰を落ち着けた。

 程なくして、店員が注文を取りに来た。

「ご注文はお決まりですか?」
「あ~、チャイ……いや、とりあえず、ホットコーヒーを1つ、お願いします」
「畏まりました」

 注文を取り終えた店員が席を離れると、外にいる開放感から、浩志は、椅子に座ったまま小さく伸びをした。

 その時、タイミングよく、花散らしの風が小さなつむじ風を伴って通り過ぎる。つむじ風は、まるで悪戯をする様に、浩志の鼻上に桜の花びらをそっと乗せていった。

「桜か……」

 浩志は、それをそっと手に取ると、しばらく眺めてから、ふっと息を吹きかけた。彼の息に煽られた花びらは、彼の掌からフワリと飛び立ち、微風に攫われていく。

 花びらの行方をなんとなく目で追っていると、視界に、ピンクのワンピース姿の優が映った。

 こちらの視線に気がついた優が、手を振りながらパタパタと駆けてくる。

「お待たせ~。待った?」
「いや、今来たところ」
「ちょっと待ってて」

 そう言い置き、優はカフェの入口へと姿を消した。程なくして、店員に案内されながら、やってきた優を再び目にしたとき、浩志は、彼女に違和感を感じた。

 とりあえずは2人分のランチを注文し、一息ついたところで、浩志は、何気なく彼女に問いかけた。

「なぁ、なんか今日、小さくないか?」

 浩志の問いに、優は嬉しそうに微笑む。

「あれ? 気がついた? そう、今日、スニーカーなの」

 そう言って、優は机の下から片足を覗かせる。なるほど。いつもならば、歩きにくそうな踵の高いヒールを履いているのだが、今日は、随分とラクそうな靴がチラリと見えた。

「慌てて出てきて、履き間違えたのか?」
「もう、バカね。そんなわけないでしょ」

 浩志の何気ないボケを、優は呆れたように突っ込んだ。
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