スターチスを届けて

田古みゆう

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17.4月1日(2)

17.4月1日(2) p.10

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「優ちゃん。お姉ちゃんみたいにせつなを優しく包んでくれてありがとう。大好きだよ。今度は、せつなが優ちゃんを包むよ。優ちゃんの想いが誰かさんに届くこと、優ちゃんが幸せになることを空の上から祈ってるから」
「うぅ……」

 ずっと泣き続けの優は、もう、言葉が出ないでいる。

「成瀬くん。いっぱい力になってくれてありがとう。頼もしかった。もっともっと頼られる人になってね。それから、待たせ過ぎは良くないよ? 早く自分の気持ちに気付いてあげて」
「なんだそれ。どういう意味だよ、せつな? 俺、バカだから、ちゃんと言ってくれないと分からないよ」

 浩志も、もう止まらない涙をぽたぽたと地面にしみ込ませ、鼻を盛大に啜っている。

 せつなは、泣き止まない2人の友人を愛おしそうに、少し困ったように見る。

 それから、あることに気がついたせつなは、少し離れた場所で、全ての成り行きを見守っていた園芸部員に声をかけた。

「センパイ。スターチスが咲いたら、成瀬くんと、優ちゃんに渡してほしいの。お願いできる?」
「うん。いいよ」

 この、不思議な光景の中、1人動じることなく、そっと脇に控えていた上級生は、せつなの願いを快く引き受けてくれた。

「ねぇ。そんなに泣かないで。また、みんなで会えるよ。そんな気がするの。せつなは、また2人に絶対会いに来るから。約束する。スターチスの花に誓うよ。だから、それまで、元気でいてね」

 せつなの声は、次第に遠ざかるように小さくなっていく。せつなの別れの言葉を待っていたのか、再び、中庭に降り注ぐ光が強く眩しくなった。やがて、せつなの周りに咲き誇っていたスターチスの花々が金色の光に飲み込まれ始める。激しい光に思わずまた目を細めるが、浩志と優は、少しでも長くせつなの姿をその目に焼き付けようと、光に抗うように友人の姿を見つめ続ける。

 澄んだ空の色との境界がなくなるほどにひと際強い光が中庭を包むと、せつなの姿は、光の中に溶けるかのように見えなくなった。浩志と優は、いつしか手を繋いで、その光の中にいた。

 ようやく光が収まると、皆は、互いにぼんやりと顔を見合わせあっていた。

「懐かしいわね、この花壇。3人揃ったから、ついつい見に来ちゃったわね」

 蒼井たちは大人は、どこか夢心地のまま、ぼんやりとした表情で、昔を懐かしむように花壇を見やり、それから、楽しそうに昔話に花を咲かせながら、中庭を後にした。
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