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17.4月1日(2)
17.4月1日(2) p.6
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「せつなは、それで十分満足しちゃったんだよ。ああ、スターチスを見て、お姉ちゃんが喜んでくれてるって」
「そんな……じゃあ、私のせいなのね? せつなちゃんとのお別れは私が引き起こしたのね……」
項垂れて、大粒の涙を地面に落とす優を、せつなは愛おしそうに抱きしめる。
「そうじゃないよ。優ちゃんはせつなを開放してくれたの。長い間、自分の想いに縛られていたせつなの心を、やっと自由にしてくれたんだよ」
「でも……でも、だからって、お別れなんて……」
聞き分けなくせつなの腕の中で首を振る優の背中を優しく撫でながら、せつなは、浩志に目を向ける。
「成瀬くんも、ありがとう。成瀬くんが、せつなに気がついてくれたことが、せつな達がともだちになれた、そもそもの始まりだもんね。せつなを見つけてくれてありがとう」
「やめろ! そんなのまるで別れの挨拶みたいじゃないか」
彼はせつなの視線を避けるように、顔を背け、声を荒げる。そのしぐさは、まるで何かに抗っているようだ。
2人は別れの時を受け入れまいとしているのに、せつなだけは、満足そうな笑みを湛え、胸の内の思いをすべて言葉にして、2人に届けようとしている。
「優ちゃん。突然現れたせつなを温かく受け止めてくれてありがとう」
「せつなちゃん……」
「成瀬くん。いつもせつなに寄り添ってくれてありがとう」
「やめろ! やめてくれ!」
浩志の声が、せつなの言葉を遮るように大きく中庭に響く。彼の瞳からは、堪えきれなくなった雫がポトリポトリと落ちる。
そこへ、浩志の声を聞きつけた、小石川たちが慌てたように駆け寄ってきた。
「どうした? 成瀬。大丈夫か?」
一番に浩志に駆け寄った小石川は、浩志の顔を見て、ハッと息を飲んだ。小石川に追いついた蒼井と、その夫正人も、すぐに、その場の雰囲気を察して肩を強張らせる。
「もしかして、せつなはもう……?」
蒼井の悲し気な声が、彼女の口から小さく漏れる。相変わらず、大人たちにはせつなの姿が見えない。小石川は、気づかわし気な声で浩志に問いかけた。
「成瀬。せつなは、もうここにはいないのか?」
「俊ちゃん。せつなは、ここにいるよ。みんな、間に合ってよかった」
小石川に語り掛けるせつなの声を聞いて、浩志は、手の甲でグッと涙を拭う。せつなの声は小石川には聞こえない。せつなの声を伝えなくては、そう思い、彼は、泣き出しそうになるのを堪えて、口を開いた。
「そんな……じゃあ、私のせいなのね? せつなちゃんとのお別れは私が引き起こしたのね……」
項垂れて、大粒の涙を地面に落とす優を、せつなは愛おしそうに抱きしめる。
「そうじゃないよ。優ちゃんはせつなを開放してくれたの。長い間、自分の想いに縛られていたせつなの心を、やっと自由にしてくれたんだよ」
「でも……でも、だからって、お別れなんて……」
聞き分けなくせつなの腕の中で首を振る優の背中を優しく撫でながら、せつなは、浩志に目を向ける。
「成瀬くんも、ありがとう。成瀬くんが、せつなに気がついてくれたことが、せつな達がともだちになれた、そもそもの始まりだもんね。せつなを見つけてくれてありがとう」
「やめろ! そんなのまるで別れの挨拶みたいじゃないか」
彼はせつなの視線を避けるように、顔を背け、声を荒げる。そのしぐさは、まるで何かに抗っているようだ。
2人は別れの時を受け入れまいとしているのに、せつなだけは、満足そうな笑みを湛え、胸の内の思いをすべて言葉にして、2人に届けようとしている。
「優ちゃん。突然現れたせつなを温かく受け止めてくれてありがとう」
「せつなちゃん……」
「成瀬くん。いつもせつなに寄り添ってくれてありがとう」
「やめろ! やめてくれ!」
浩志の声が、せつなの言葉を遮るように大きく中庭に響く。彼の瞳からは、堪えきれなくなった雫がポトリポトリと落ちる。
そこへ、浩志の声を聞きつけた、小石川たちが慌てたように駆け寄ってきた。
「どうした? 成瀬。大丈夫か?」
一番に浩志に駆け寄った小石川は、浩志の顔を見て、ハッと息を飲んだ。小石川に追いついた蒼井と、その夫正人も、すぐに、その場の雰囲気を察して肩を強張らせる。
「もしかして、せつなはもう……?」
蒼井の悲し気な声が、彼女の口から小さく漏れる。相変わらず、大人たちにはせつなの姿が見えない。小石川は、気づかわし気な声で浩志に問いかけた。
「成瀬。せつなは、もうここにはいないのか?」
「俊ちゃん。せつなは、ここにいるよ。みんな、間に合ってよかった」
小石川に語り掛けるせつなの声を聞いて、浩志は、手の甲でグッと涙を拭う。せつなの声は小石川には聞こえない。せつなの声を伝えなくては、そう思い、彼は、泣き出しそうになるのを堪えて、口を開いた。
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