スターチスを届けて

田古みゆう

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17.4月1日(2)

17.4月1日(2) p.4

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「せつなみたいな、ココロノカケラ? っていう、不思議な存在に会っちゃってるから、天使がいたっておかしくないのかも、とも思ってる」

 上級生は、浩志の言葉が思いもよらなかったのか、目をパチクリとさせる。そんな上級生に優も、真剣な顔で頷いて見せる。

「私も、すぐには信じられないけれど、天使がいたっていいと思います。それに、天使かどうかは置いといて、先輩は、ココロノカケラについて詳しいんですよね? 私たちは、ココロノカケラについて知っている人に会いたいと思っていました。話を聞きたいと。それが、先輩なんですよね?」

 浩志と優に真剣な眼差しを向けられた上級生は、しばし、瞬きを繰り返した後、虚空へと視線を向け、先ほどのように、まるで誰かの話を聞いているような動きをしてから、浩志と優に向き直った。

「2人が素直な心の持ち主で、嬉しいよ。だから、せつなちゃんと交流が持てたんだね」

 上級生は、嬉しそうに2人に笑みを見せ、慈しむように一瞬せつなへ視線を向けた後、言葉を続けた。

「私は、別にココロノカケラについて詳しいわけじゃないんだ。ただ、他の人よりも少しだけ、不思議な存在について知っているだけ」
「それでも、私たちよりは、知っているってことですよね?」

 優の必死な声に、上級生は静かに頷く。

「そうだね。きみ達よりは知っているよ。きみ達に、というより、せつなちゃんにもう、時間がないこともね」
「それ、さっきも言ってたよな? 一体どういうことなんだ? 時間がないって……そんなの、まるで……」

 浩志は、その先を口にしたくないという風に、頭を振り、俯いてしまう。そんな浩志に、上級生は、淡々と言葉を投げる。

「時間がないというのは、言葉の通りだよ。ココロノカケラは、強い思いが、この地に残って、形を成しているものなんだ。だから、その思いが遂げられれば、無に還ることになる」
「……そんな……」

 上級生の言葉に、優は思わず息を飲み、まるで、そこから声を零してしまわないようにと口元を手で覆った。

「でも、きみ達だって本当は分かっていたんじゃない? いつかは別れの時が来るってこと。それに、せつなちゃんは、もうその時が近いことを悟っているよ」

 そう言われ、2人は思わずせつなの背中を探す。先ほどまで、緑の絨毯を無邪気に眺めていたはずのせつなは、いつの間にか、浩志と優をしっかりと見つめ、寂しそうな笑みを浮かべていた。
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