スターチスを届けて

田古みゆう

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17.4月1日(2)

17.4月1日(2) p.2

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 せつなはそうフォローしつつ、再び2人の少し前を歩きだす。

 彼らは、体育館の片付けをした後、蒼井との約束通り中庭へと来ていた。しばらくすれば大人たちも来るだろうと、ワイワイと本日の感想を言い合いながら、いつもの花壇まで来ると、そこには珍しく先客がおり、思わず足を止めた。

 学校指定のジャージに軍手とジョウロを手にしたその先客は、緑の絨毯が広がる花壇をじっくりと観察している。ジャージの色からして、高等部の生徒のようだ。

 その顔に、見覚えのあった浩志は、記憶を探るように首を傾げる。彼が、自身の記憶を辿っている間に、せつなは、親しげな声をあげながら先客へと駆け寄った。

「センパイ。来てたんだ」

 せつなの声に振り向いたその先客は、いつか、浩志を強引に園芸に誘ったあの女子生徒だった。

「ああ。せつなちゃん。こんにちは。あなたのスターチスに水をあげていたところだよ」
「いつもありがとう」

 せつなとその女子生徒は、親しげに言葉を交わす。その様子を不思議に思った優は、小声で浩志に問いかけた。

「ねぇ。あの人、せつなさんと話してるって事は、せつなさんのことが見えているのよね? 他の人には見えないはずなのにどうしてかしら?」
「さぁ? でも、前から見えてたみたいだぞ。前に会った時も普通に話してたし」
「えっ? 成瀬、あの人のこと、知ってるの?」
「ああ、知ってるって言うか、高等部の園芸部の人。前に、ここで会ったことが……」

 浩志は、自身の言葉に目を見張る。

「あの人、まさか、せつなが言ってた天使なんじゃ……?」

 浩志がポロリと溢した言葉に、目を丸くする優の顔を見つめつつ、浩志自身も驚きのあまり、目と口をポカリと開けて、首を傾げた。

 まさかと思いながらも、その場で固まる浩志たちを、せつなは振り返りつつ、手を振って呼ぶ。

「優ちゃーん。成瀬くーん。早くー。センパイが、水やりしてくれたってー」

 そんな声に引っ張られるように、2人はぎこちない足取りで、せつなの元へと歩み寄った。

 そばに来た2人に、上級生は、笑顔を向ける。

「あら、きみは確か前にも会ったよね? 園芸部のこと、考えてくれた?」
「……いえ、俺は……」

 上級生は、得体の知れなさからか距離を取る浩志に苦笑いを浮かべつつ、今度は、優に声をかける。

「あなたは、はじめましてよね?」

 いつもは物おじしない優も、何も言葉を発せずただコクリと頷いただけだった。
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