スターチスを届けて

田古みゆう

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16.4月1日(1)

16.4月1日(1) p.12

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 小石川の言葉に、壇上からそれとなく司会役の生徒へ視線を送ると、チラチラとこちらの様子を伺っているのがわかる。

「そう……そうね。でも……」

 名残惜しそうに、浩志と優の間の空間を見つめる蒼井を見かねて、小石川が提案した。

「この会が終わってから、もう一度皆で集まろう。成瀬と河合、それから、せつなも、それでいいか?」

 優たち3人は、チラリと互いに視線を交わし、頷きあう。

「私たちは、それでいいです。もちろん、せつなさんも」
「良し。分かったな、永香。せつなとの話は、またあとでだ」
「……うん。……でも……」

 これ以上時間を引き延ばせないことは、頭では理解していても、気持ちが追いつかない蒼井は、どこか、歯切れの悪い返答をする。

 そんな蒼井を見て、せつなは、まだ目尻に残っていた涙をグッと拭うと、自身のことが見えていないと分かっていながら、蒼井に向かってニカッと笑いかけた。

「もう、お姉ちゃん。我儘言っちゃだめだよ。せつなは、中庭のあの花壇の前で待っているから。あとで必ず来てね」

 優からせつなの言葉を聞いた蒼井は、いつしか重力に耐え切れずに零れ落ちてしまった涙を拭うと、せつながいるであろう空間に向かって何度も頷いた。

「うん。うん。必ず。必ず行くから待っていてね」

 蒼井の答えを聞いたのち、浩志たち3人と、小石川は壇上を降りた。

 他の生徒よりも明らかに長く壇上で話していた浩志たちは、これ以上目立たないようにと、壁際をそっと進み、会場後方の席へと戻る。その間、小石川は、壇上へ訝し気に視線を向けていた司会の生徒と歩み寄ると、二三冗談を交えて言葉を交わし、司会の気を逸らしてから、進行を進めるようにとサラリと促した。

 その後、参加者全員の集合写真を撮り、涙ながらの蒼井の謝辞を経て、サプライズパーティーは、和気藹々と盛り上がりを見せるうちに閉会した。
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