スターチスを届けて

田古みゆう

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16.4月1日(1)

16.4月1日(1) p.9

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 さすがは、元園芸部。花を見ただけで、その名をサラリと口にしながら、小さな花束を紙袋から取り出し、新婦蒼井の前に差し出した。

「うわぁ! 本当だ、可愛い」

 小さな花束を目にした蒼井教諭は、少女のように、はしゃいだ声を上げた。彼女の手は、生徒たちから手渡された会場を彩っていたたくさんの造花で既に塞がっていたため、花束を正人に持たせたまま、彼女は、顔を近づけクンクンと匂いを嗅ぐ仕草を見せる。

 そんな姉の様子を、正面に立つせつなはポカンと見ていた。

 せつなの視線が届かない姉は、一頻り花束の匂いを楽しむと、嬉しそうに、しかし、不思議そうに小首を傾げた。

「2人とも、本当にありがとう。このスターチスという花は、私にとって、とても思い出深い花なの。だから、とても嬉しいわ。でも、どうしてこの花なのかしら?」

 蒼井の問いに、浩志は、自身の隣に立つせつなに視線を送った。

「この花は、先生に送りたいと思っていた花です」
「えっ? ……せつ、な……?」
「先生がみんなから受け取った造花も、始めは、一人で作っていたものなんです」

 優が、蒼井の手に握られている造花を指し示し、隣に立つせつなへと視線を送ると、せつなは2人の粋なサプライズに目を丸くしていた。せつなの正面に立つ姉の蒼井教諭も、せつなと同じように目を丸くしており、その表情は、やはり姉妹なのだと思ってしまうほどに似通っていた。

「ちょ、ちょっと待って……って、どういうこと? あなたたちは、誰のことを言っているの?」

 せつなという名に驚きを隠しきれず、少々困惑気味の蒼井の肩に、小石川が軽く手を置きながら、彼女を落ち着かせるように、目を見て、ゆっくりと口を開いた。

「落ち着け、永香。正人も聞いてくれ。信じられない話なんだが、成瀬たちは、せつなを……お前の妹を知っているんだ」
「しゅ、俊ちゃん。何言っているの? だって……あの子は……」

 蒼井は、動揺からさらに大きく目を見開き、言葉が続かない口は、パクパクと空気を吐き出していた。

「お前の言いたいことはわかる。せつなは、15年前に俺たちのもとを去った。だけど、どういうわけか、成瀬たちは、せつなに会ったみたいなんだ。実際に俺がせつなに会ったわけじゃないけど、でも、こいつらが、嘘を吐く理由はないし、そんなことをする奴らじゃないことは、永香だって知っているだろ?」
「……」
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