スターチスを届けて

田古みゆう

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16.4月1日(1)

16.4月1日(1) p.7

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 不思議そうに問うせつなに優は、しれっと答える。

「あ~、なんか、トイレだって」
「ふ~ん。早く戻ってこないかしら」

 せつなは、司会の生徒に促され、徐々に伸び始めた生徒の列を見遣る。

「ねぇ、優ちゃんたちも、あの列に参加するのよね?」

 どことなく緊張気味に問うせつなに、優は大きく頷く。

「もちろん!」
「あ、あのね……私も一緒に行っていいかな? 例え、お姉ちゃんに気が付かれなくても、近くできちんとお祝いを言いたいの」

 せつなは、懇願する様に胸の前で手を組み、いつか浩志にやったようにお願いポーズを取る。それは、男子の心だけではなく、女子の心をも掴む威力がありそうなほどに、可愛らしく優の目には映った。

「当たり前だよ! お願いされなくたって一緒に行くつもり!」

 優は、せつなの手をぎゅっと握った。本当は、せつなの可愛さに抱きつきたいところだったが、目立たないように、隅の方にいるので、余り大袈裟な動きはできなかったのだ。

 優は、生徒の列へと視線を向ける。生徒の動きは粗方落ち着いたようだった。司会の方でもそろそろ良いだろうと判断したのか、進行を始めた。その声を聞いて、優は、せつなに声をかける。

「行こう。せつなさん」
「えっ? でも、成瀬くんまだ戻って来ないよ?」
「いいよ。並んでいるうちに戻って来るって」

 そう言って、優は、お祝いを言うために並んでいる生徒の列へと駆け出した。せつなもそのあとを追う。

 慌ただしく、列の最後尾につけた優だったが、実は、この行動は浩志と打ち合わせ済みのことだった。

 2人は、せつなと蒼井の姉妹が例え言葉を交わせなくとも、せつなの想いを少しでも叶えようと、花束をプレゼントすることを決めていた。それは、せつなへのサプライズでもあるため、彼らは少女に気が付かれないように行動していたのである。

 花束を渡すのは、せつなが蒼井の前に立った時。もしも、予想外のことが起きて、後ろに並ぶ生徒に迷惑をかけてしまわないよう、列の最後尾に並ぶことも2人で予め話し合っていた。

 浩志は、予め隠しておいた紙袋を手に、扉の隙間から、優が予定通り列の最後尾に並んだことを確認した。それから、袋の中の布をそっと捲る。小さな紫の花と、その間に散りばめられた白い小さな花が束ねられた花束がチラリと見える。それは、決して豪華では無いけれど、可愛らしく纏められていた。
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