スターチスを届けて

１６．４月１日（１）

１６．４月１日（１） ｐ．２

　いつもならば、部員の掛け声が響く体育館が、妙に静かな事に、蒼井教諭は眉根を寄せる。

　傍にいる、自身を呼びに来た優を訝しそうに見ながら、口を開いた。

「随分と静かだけど、練習はどうしたの？」
「大丈夫です。みんな、中にいますから」

　そう言いながら、優は満面の笑みを蒼井に向けると、軽く扉をノックした。

　すると、それを合図に両扉が勢い良く開き、中から眩しい光と共に、幾重にも重なった拍手の音が漏れ出てきた。

　突然のことに蒼井は、ポカンと口を開け、その場に立ちすくむ。そんな蒼井の背中を、優はそっと押した。

　優の手の感触に、ハッとした蒼井は、優の顔をまじまじと見つめる。

「これは？」
「先生の結婚パーティーです！」
「ええ？」
「さぁ、真っ直ぐ進んでください。新郎の今井さんが、あちらでお待ちですよ」

　優の言葉に、視線を勢いよく館内へ向けると、確かに、先日、家族になったばかりの正人がいるのが見えた。

　何が何だか分からないまま、優に促され、蒼井は、グリーンシートへ足を踏み出す。

　館内の照明は落とされ、自身にだけ降り注ぐスポットライトの居心地の悪さに、足早に、正人の元へと向かう。

　そのとき、視界の端で、キラリと何かが光った様な気がしたが、照明が落とされているので、そちらの方へ目を向けても、何も見えなかった。

　拍手と照明が降り注ぐ中、蒼井が正人の隣に並ぶと、それを見計らった様に、司会役の生徒の声がマイクを通して響いた。

　司会役に壇上へ上がる様に促された蒼井と正人は、連れ立って舞台上へと上がると、そこには２人の為の席が設えてあった。

　２人がその席まで行くと、自然と拍手は止み、それと共に、司会役の生徒が声高にパーティーの開会を宣言した。

　ことの成り行きを、未だに呆然と見つめる蒼井のために、まずは、ゲスト代表の挨拶を兼ねて、小石川がマイクを取り、今回の趣旨説明を始めた。

「まずは、蒼井先生、今井くん。ご結婚おめでとうございます。……というのは、先日行いましたので、ここでは割愛させてもらって、蒼井先生が随分と驚かれている様なので、僕から、簡単に本日の説明をさせてもらいます」

　小石川は、少し戯けた口調で、今回のパーティーは部活の一環ではあるけれども、生徒たちが気持ちを込めて準備したのだという事を説明した。

　その話を聞いているうちに、蒼井は、口元を押さえ、驚きから、感激へとその表情を変えていった。