スターチスを届けて

田古みゆう

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16.4月1日(1)

16.4月1日(1) p.1

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 時刻は間もなく11時半。浩志の隣にひっそりと立つせつなは、固唾を飲んで、体育館の閉ざされた扉を見守っていた。

 その扉から舞台上へと伸びるのは、レッドカーペットならぬ、グリーンシート。運動部のために、滑り止めや床の傷防止などの特殊加工がされている体育館は、普段は、専用の上履きでないと入れない。しかし、入学式や卒業式などで、専用の上履きを持たない外部の者が来た際に、体育館へ入れる様にと、床を保護するためのシートが倉庫には何ロールも保管されている。今回は、その一つを借用し、バージンロードに見立てているらしい。

 手製のバージンロードの両脇には、各教室から持ち込んだ机が、4組1テーブルで島を作り、幾つも設置されている。机を合わせた中央部の隙間には、浩志たちがここ数日、せっせと拵えた手製の造花が数本ずつ差し込まれ、殺風景な机の島を彩っている。

 手作りの花は、壁の至る所にも貼り付けられており、これらは、優が考えていた通り、パーティー内で、花嫁に手渡される事になっていた。

 さらに机の上には、食べ物や飲み物が乱雑に広げられている。優の所属する部と、小石川教諭が受け持つサッカー部の面々が主軸となり今回のパーティーが進行するとはいえ、参加者を幅広く募っているため、流石に、今回の飲食物代をそれぞれの部費から負担することは、妥当ではないという、小石川の判断により、飲食物は各自の持ち寄りとなった。

 そのため、昼食を兼ねた立食パーティーは、それぞれ手弁当で参加し、弁当の交換会が、そこかしこで繰り広げられている。中には、手作りのスイーツを披露している者もいた。

 そんなワイワイと喧騒渦巻く中、手製のバージンロードの先、壇上へと向かう階段の下には、カジュアルなジャケットにスラックスという格好で、所在無げに佇む男性。

 彼は、新郎である今井いまい正人まさと。今日のことは、事前に小石川から聞かされていた筈だが、卒業してから既に何年も経っており、小石川や蒼井の様に学校をホームグランドとしない彼には、何処か居心地悪い場所に感じているのかもしれない。そんな彼を満面の笑みで揶揄う小石川が側にいる。

 本来ならば、彼の隣に居るべき本日の主役の姿は、まだこの場にない。予定では、もう間も無く、優に連れられて、何も知らない花嫁が、この場に現れる事になっている。

 すると、体育館内の照明が落とされ、一つの扉に光が集中する。

 結婚パーティーの始まりだ。
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