スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
60 / 116
13.3月20日

13.3月20日 p.4

しおりを挟む
「お、おう! 俺にできることなら」

 浩志は、可愛らしいせつなから明後日の方へと視線を逸らし、気まずそうに頬を掻く。しかし、話を聞く意思はあるのか、先を促すように、チラチラと横目で視線を少女へ送る。そんな彼の態度を見極めるように、しばらく見つめた後、せつなは、口を開いた。

「あのね。成瀬くん。せつな、お姉ちゃんの結婚式に出たいの」
「……えっ?」
「何かいい案、ないかな?」

 少女の懇願するような顔と、彼の困惑した視線が交わると、2人は、互いにググッと眉間を寄せた。

「そ、そうだよな。プレゼントする為に、花を用意しているんだし。う~ん。何かあるかな? ……シンプルに、蒼井に頼んでみるとか?」

 浩志の提案に、せつなは、悲しそうに首を振る。

「お姉ちゃんには、何度か声をかけたけど、聞こえないみたい」
「そう……なのか」

 浩志も、せつなの答えに肩を落とす。それから、パチリと指を鳴らすと、閃いたというように、自信満々に人差し指を立てた。

「なぁ! こいちゃんは?」
「俊ちゃん?」
「そう。もしかしたら、こいちゃんなら、せつなの声が聞こえるんじゃないか?」
「そうかな?」

 彼自身には名案に思えたが、腑に落ちないという風に、首を傾げるせつなの態度に、彼の勢いは急落する。

「……わかんないけどさ、でも、条件は河合と一緒だろ。せつなの存在を認識していたから、河合は、せつなが見えた。だったら、俺らと話した事で、こいちゃんだって、せつなの存在に気がついているって事にならないか?」
「う~ん。どうだろう? そういう事なのかな?」

 彼の力説にも、少女は、曖昧に首を傾げたままだ。

「その説で言うなら、お姉ちゃんに、せつなの存在を認識して貰えればいいって事になるよね?」
「あっ、そうか! じゃあ、蒼井に会いに行くか! 俺らがせつなの事、蒼井に伝えてやるよ」
「……う~ん」

 なかなか笑顔を見せないせつなに、浩志は、少女の真意が掴めず、ため息を吐いた。

「せつなはさ、何が、引っかかるんだ? 姉ちゃんに会いたいんだろ?」

 浩志の問いに、少女は、悲しそうに、眉尻を下げ、項垂れた。

「会いたい。会いたいよ……けど……。お姉ちゃんね、やっと笑うようになったんだ。正人くんのおかげ。お姉ちゃん、たまに、正人くんと、この花壇を見に来てたの。でも、時々、せつなの話をして、泣いちゃって……成瀬くんたちがせつなの話をして、もしも、やっぱり見えなかったってなったら……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

透明の「扉」を開けて

美黎
ライト文芸
先祖が作った家の人形神が改築によりうっかり放置されたままで、気付いた時には家は没落寸前。 ピンチを救うべく普通の中学2年生、依る(ヨル)が不思議な扉の中へ人形神の相方、姫様を探しに旅立つ。 自分の家を救う為に旅立った筈なのに、古の予言に巻き込まれ翻弄されていく依る。旅の相方、家猫の朝(アサ)と不思議な喋る石の付いた腕輪と共に扉を巡り旅をするうちに沢山の人と出会っていく。 知ったからには許せない、しかし価値観が違う世界で、正解などあるのだろうか。 特別な能力なんて、持ってない。持っているのは「強い想い」と「想像力」のみ。 悩みながらも「本当のこと」を探し前に進む、ヨルの恋と冒険、目醒めの成長物語。 この物語を見つけ、読んでくれる全ての人に、愛と感謝を。 ありがとう 今日も矛盾の中で生きる 全ての人々に。 光を。 石達と、自然界に 最大限の感謝を。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

異世界コンビニ

榎木ユウ
ファンタジー
書籍化していただきました「異世界コンビニ」のオマケです。 なろうさん連載当時、拍手に掲載していたものなので1話1話は短いです。 書籍と連載で異なる部分は割愛・改稿しております。

処理中です...