スターチスを届けて

田古みゆう

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13.3月20日

13.3月20日 p.4

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「お、おう! 俺にできることなら」

 浩志は、可愛らしいせつなから明後日の方へと視線を逸らし、気まずそうに頬を掻く。しかし、話を聞く意思はあるのか、先を促すように、チラチラと横目で視線を少女へ送る。そんな彼の態度を見極めるように、しばらく見つめた後、せつなは、口を開いた。

「あのね。成瀬くん。せつな、お姉ちゃんの結婚式に出たいの」
「……えっ?」
「何かいい案、ないかな?」

 少女の懇願するような顔と、彼の困惑した視線が交わると、2人は、互いにググッと眉間を寄せた。

「そ、そうだよな。プレゼントする為に、花を用意しているんだし。う~ん。何かあるかな? ……シンプルに、蒼井に頼んでみるとか?」

 浩志の提案に、せつなは、悲しそうに首を振る。

「お姉ちゃんには、何度か声をかけたけど、聞こえないみたい」
「そう……なのか」

 浩志も、せつなの答えに肩を落とす。それから、パチリと指を鳴らすと、閃いたというように、自信満々に人差し指を立てた。

「なぁ! こいちゃんは?」
「俊ちゃん?」
「そう。もしかしたら、こいちゃんなら、せつなの声が聞こえるんじゃないか?」
「そうかな?」

 彼自身には名案に思えたが、腑に落ちないという風に、首を傾げるせつなの態度に、彼の勢いは急落する。

「……わかんないけどさ、でも、条件は河合と一緒だろ。せつなの存在を認識していたから、河合は、せつなが見えた。だったら、俺らと話した事で、こいちゃんだって、せつなの存在に気がついているって事にならないか?」
「う~ん。どうだろう? そういう事なのかな?」

 彼の力説にも、少女は、曖昧に首を傾げたままだ。

「その説で言うなら、お姉ちゃんに、せつなの存在を認識して貰えればいいって事になるよね?」
「あっ、そうか! じゃあ、蒼井に会いに行くか! 俺らがせつなの事、蒼井に伝えてやるよ」
「……う~ん」

 なかなか笑顔を見せないせつなに、浩志は、少女の真意が掴めず、ため息を吐いた。

「せつなはさ、何が、引っかかるんだ? 姉ちゃんに会いたいんだろ?」

 浩志の問いに、少女は、悲しそうに、眉尻を下げ、項垂れた。

「会いたい。会いたいよ……けど……。お姉ちゃんね、やっと笑うようになったんだ。正人くんのおかげ。お姉ちゃん、たまに、正人くんと、この花壇を見に来てたの。でも、時々、せつなの話をして、泣いちゃって……成瀬くんたちがせつなの話をして、もしも、やっぱり見えなかったってなったら……」
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