58 / 116
13.3月20日
13.3月20日 p.2
しおりを挟む
優の来訪により、せっかくの休みだというのに、ダラダラするわけにもいかなくなった浩志は、そのまま、朝食を取り、頑固な寝癖と格闘し、それから、しばらくマンガでも読もうと自室へ戻ってきた。
春休みは、課題なんて苦行は課されない、唯一、のんびりダラダラ過ごせる時なのに、今日はそんな過ごし方は許されないらしい。
チラリと部屋の隅へ目をやると、まるで浩志の抜け殻のごとく、抜け出した時の形を保ったままのベッドが、主を誘っているような気がした。
いつもなら、そんな誘惑になんなく屈する彼だったが、今日は、そういう訳にはいかない。浩志は、ベッドから視線を外すと、制服の上着と、ほとんど何も入っていないリュックを掴み、部屋を出た。
優はゆっくりでいいと言っていたが、手持ち無沙汰で家にいるよりは、さっさと学校へ行ってしまおうと考えた浩志は、日に日に暖かさが増してくる空気の中、ゆっくりと学校へ向かった。
それでも、優の部活が終わるよりも早く学校へと到着してしまった浩志の足は、迷うことなく、中庭を目指す。
校舎に挟まれながらも、しっかりと太陽の日を浴びて明るく照り返す中庭の、いつもの花壇の前には、そこが定位置であるかのように、少女の姿があった。
「居ないかと思った」
不意打ちのような浩志の声に、せつなは、驚きもせず、振り返る。
「いつも見かけるのは、夕方近くだったから、そのくらいの時間じゃないと会えないかと思ってた」
「せつなは、いつだってここにいるよ」
淡々と答えるせつなに、浩志は、数日前の事を思い出し、意地悪く少女の顔を覗き込みながら言う。
「そうなのか? あれ? でも、待ってても会えなかった日があったぞ?」
「ああ。あの時は、新月だったからね。いつもそうなの。月のない新月の日は、何故だか、実体化できないんだ。何かの力が働いてるのかな? なんかさ、月って、神秘的だと思わない?」
そんな事を言いながら、せつなは、空を見上げて、今は、太陽の光を隠れ蓑のようにして隠れている月を見上げ、クスリと笑う。昨日の友情宣言以降、せつなは、それまでと違い、饒舌だった。
軽口を言ったつもりだったのに、それを楽しげにかわすせつなに、思わず浩志にも笑みが溢れる。
「せつなってさ、ホントは、そんなにしゃべる奴だったのな」
浩志の言葉に、少女はハッとしたように、空に投げていた視線を彼へと向ける。
「ごめん。せつな、しゃべりすぎだった?」
春休みは、課題なんて苦行は課されない、唯一、のんびりダラダラ過ごせる時なのに、今日はそんな過ごし方は許されないらしい。
チラリと部屋の隅へ目をやると、まるで浩志の抜け殻のごとく、抜け出した時の形を保ったままのベッドが、主を誘っているような気がした。
いつもなら、そんな誘惑になんなく屈する彼だったが、今日は、そういう訳にはいかない。浩志は、ベッドから視線を外すと、制服の上着と、ほとんど何も入っていないリュックを掴み、部屋を出た。
優はゆっくりでいいと言っていたが、手持ち無沙汰で家にいるよりは、さっさと学校へ行ってしまおうと考えた浩志は、日に日に暖かさが増してくる空気の中、ゆっくりと学校へ向かった。
それでも、優の部活が終わるよりも早く学校へと到着してしまった浩志の足は、迷うことなく、中庭を目指す。
校舎に挟まれながらも、しっかりと太陽の日を浴びて明るく照り返す中庭の、いつもの花壇の前には、そこが定位置であるかのように、少女の姿があった。
「居ないかと思った」
不意打ちのような浩志の声に、せつなは、驚きもせず、振り返る。
「いつも見かけるのは、夕方近くだったから、そのくらいの時間じゃないと会えないかと思ってた」
「せつなは、いつだってここにいるよ」
淡々と答えるせつなに、浩志は、数日前の事を思い出し、意地悪く少女の顔を覗き込みながら言う。
「そうなのか? あれ? でも、待ってても会えなかった日があったぞ?」
「ああ。あの時は、新月だったからね。いつもそうなの。月のない新月の日は、何故だか、実体化できないんだ。何かの力が働いてるのかな? なんかさ、月って、神秘的だと思わない?」
そんな事を言いながら、せつなは、空を見上げて、今は、太陽の光を隠れ蓑のようにして隠れている月を見上げ、クスリと笑う。昨日の友情宣言以降、せつなは、それまでと違い、饒舌だった。
軽口を言ったつもりだったのに、それを楽しげにかわすせつなに、思わず浩志にも笑みが溢れる。
「せつなってさ、ホントは、そんなにしゃべる奴だったのな」
浩志の言葉に、少女はハッとしたように、空に投げていた視線を彼へと向ける。
「ごめん。せつな、しゃべりすぎだった?」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

殿下の婚約者は、記憶喪失です。
有沢真尋
恋愛
王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。
王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。
たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。
彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。
※ざまあ要素はありません。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる