スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
57 / 117
12.3月19日 (3)

12.3月19日 (3) p.8

しおりを挟む
「その人が言うには、心の一部がこの世界に取り残された時、媒体となるものが有れば、ココロノカケラは、この世に留まることが出来るんだって。せつなの場合は、コレ」

 せつなは、制服の胸ポケットから何かを取り出した。小さな握り拳を開くと、オモチャの指輪が、コロリと掌に乗っていた。指輪は、まるで自己主張をするかのように、キラリと光を放つ。

 指輪は、いつもせつなが持っていた物なので、浩志には既に見慣れた物になっていた。

「俺、それが何故だか、気になってたんだ。それ、やっぱり大事な物だったんだな」
「うん。せつなも、その人が教えてくれるまで、コレが媒体だなんて知らなかった。コレは、元々お姉ちゃんの物だったの。でも、あの日、少し早いけど退院祝いにって、お姉ちゃんがくれたんだ。お姉ちゃんは、コレを大切にしていたんだけど、せつなが気に入っちゃって、ずっと、お姉ちゃんにおねだりしてた物だったの。だから、もらった時は、すごく嬉しかった。絶対大切にしようって思ったの。だからかな、コレが媒体になったのは」

 せつなは、懐かしそうに、そして、大切そうに、指輪に視線を注ぐ。

「ところでさ、ココロノカケラだっけ? その事にやけに詳しい奴がいるんだな? 俺らもその人からもっと話を聞くことは出来ないかな? 俺、せつなのことちゃんと知りたい」

 せつなの目を見て浩志がキッパリと言うと、優も首を縦に振り、同意を示す。

「その人から、直接話を聞くことは、できない……かな」
「なんでだ? ソイツも幽体的な感じか?」

 せつなの答えに、浩志が眉を寄せると、せつなは、少し可笑しそうに口元を緩めて、首を横に振る。

「そうじゃないけど、まぁ、それに近いのかな」
「どう言うことだよ?」
「本人が言うには、その人は天使なんだって。だから、幽体のことに詳しいみたい。でも、天使であることは、内緒なんだって。だから、その人から話を聞くことは無理かな」
「俺たちには、見えないってことか?」

 残念そうに肩を落とす浩志に、せつなは、また首を振る。

「違うよ。天使って事を、みんなに明かせないだけ。だから、会えないだけで、実は、成瀬くんは、会ったことがあるんだよ」
「マジか!?」
「ウソ!?」

 せつなの答えに、浩志と優は、驚きのあまり、お互いに目と口を丸くした顔を見合わせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セリフ集

ツムギ
ライト文芸
フリーのセリフ集を置いています。女性用、男性用、性別不詳で分けておりますが、性別関係なく、お好きなセリフをお読み下さって大丈夫です。noteにも同じ物をのせています。 配信や動画内でのセリフ枠などに活用して頂いて構いません。使用報告もいりません。可能ならば作者である望本(もちもと)ツムギの名前を出して頂けると嬉しい限りです。 随時更新して行きます。

2年微能力組!~微妙な能力で下克上!~

阿弥陀乃トンマージ
ライト文芸
 栃木県のとある学園に仁子日光と名乗る一人の少年が転校してきた。高二にしてはあまりにも痛々し過ぎるその言動に2年B組のクラス長、東照美は眉をひそめる。しかし自身の立場上、関わり合いを持たざるを得なくなる……。  一人の転校生が微妙な能力、『微能力』で能力至上主義の学園に旋風を巻き起こしていく、スクールコメディー、ここに開幕!

星屑のメロウディーヴァ

ベアりんぐ
ライト文芸
先人達が築き上げて来た科学世界。 超科学世界の一国"トワレ"で開発されていた人工生命体アンドロイド"METSIS"だったが、感情構築機能不全や思想層状機能異常等の様々な問題が発生。次第に開発が難航、やがて中止命令が出されることとなった。 しかし、トワレに住んでいた変人天才科学者スタリング・メルトウェルが開発に着手。トワレ国内では重罪となったMETSIS開発を極秘で成功させた。 METSISの感情構築機能をスタリングが最終調整してところ、助手の密告により保安局が強襲。万が一に備えて作っていた転送装置によりMETSISとともにその場から離脱したが、METSISだけ転送装置内の異常により、別の世界へと転送されることとなってしまった。 METSISの少女は荒廃した世界で目を覚ます。 これは、METSISの少女が荒廃した世界で生きていく物語。 012 ※こちらの作品、カクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

灰かぶり姫の落とした靴は

佐竹りふれ
ライト文芸
中谷茉里は、30手前にして自身の優柔不断すぎる性格を持て余していた。 春から新しい部署となった茉里は、先輩に頼まれて仕方なく参加した合コンの店先で、末田皓人と運命的な出会いを果たす。順調に彼との距離を縮めていく茉莉。時には、職場の先輩である菊地玄也の助けを借りながら、順調に思えた茉里の日常はあることをきっかけに思いもよらない展開を見せる……。 第1回ピッコマノベルズ大賞の落選作品に加筆修正を加えた作品となります。

君がくれたキセキ ~海が見える街の硝子工房~

響 蒼華
ライト文芸
道南・函館市のある場所に、その硝子工房はあった。 好きなことに熱中すると生活がおろそかになる職人のセイと、助手である仮面の青年ヨル。そして喋る看板猫のつつじ。 穏やかに時間の過ぎゆく工房で、二人と一匹は楽しく、どこか不思議な日々を過ごしていた。 この優しい日々が何時までも続いていくのだと思っていたある日、ヨルがセイに願う。 ――自分の為に『星』を作って欲しいと。 セイは戸惑い、見え隠れする『何か』を感じながらもヨルの為に作り上げようとする。 いつか辿り着く場所への、導きの星を――。

【セリフ集】珠姫の言霊(ことだま)

珠姫
ライト文芸
セリフ初心者の、珠姫が書いたセリフばっかり載せております。 一人称・語尾改変は大丈夫です。 少しであればアドリブ改変なども大丈夫ですが、世界観が崩れるような大まかなセリフ改変は、しないで下さい。 著作権(ちょさくけん)フリーですが、自作しました!!などの扱いは厳禁(げんきん)です!!! あくまで珠姫が書いたものを、配信や個人的にセリフ練習などで使ってほしい為です。 配信でご使用される場合は、もしよろしければ【Twitter@tamahime_1124】に、ご一報ください。 覗きに行かせて頂きたいと思っております。 特に規約(きやく)はあるようで無いものですが、例えば劇の公演で使いたいだったり高額の収益(配信者にリアルマネー5000円くらいのバック)が出た場合は、少しご相談いただけますと幸いです。

夢の国警備員~殺気が駄々洩れだけどやっぱりメルヘンがお似合い~

鏡野ゆう
ライト文芸
日本のどこかにあるテーマパークの警備スタッフを中心とした日常。 イメージ的には、あそことあそことあそことあそこを足して、4で割らない感じの何でもありなテーマパークです(笑) ※第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます♪※ カクヨムでも公開中です。

さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~

みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。 生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。 夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。 なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。 きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。 お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。 やっと、私は『私』をやり直せる。 死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。

処理中です...