54 / 116
12.3月19日 (3)
12.3月19日 (3) p.6
しおりを挟む
花壇の間を風が抜けていく。それは、ぬくぬくとした春先の暖かくて包み込むようなそれではなくて、冬に戻ってしまったかのような、鋭く刺すような冷たい風だった。
浩志と優は、ぶるりと体を震わせる。せつなだけは、そんな風など気にしないとでも言わんばかりに、淡々と話し続ける。
「お姉ちゃんは止めたけど、せつなは、正人くんに花壇の手入れを教わりながら作業を続けたの。俊ちゃんは、園芸部じゃなかったけど、あの日はせつなたちに付き合ってくれたんだ。お姉ちゃんは始め、せつなが土を触る事を許さなかった。でも、せつなは、絶対怪我するような事はしないし、無理もしないからって、無理矢理お姉ちゃんにお願いして、渋々みんなと同じ作業をする事を許してもらったの」
せつなは、昔を懐かしむように少し遠い目をしている。小石川から、その時の写真を見せられていた浩志と優には、その時の光景が目に浮かぶようだった。
「土を掘り起こしたり、種を撒いたり、そんな事、今までしたことがなかったから、もう楽しくて、夢中でやった。気がつくと、服は所々汚れていたけれど、それでも、怪我をする事もなく、無事に作業を終えることができたの。その時に、新聞部の人がちょうど校内新聞のネタを探しているから、写真を撮らせてほしいと来て……その時の写真が、さっき2人が見てたやつ」
浩志と優は、せつなの話に無言で頷いた。
「お姉ちゃんには心配をかけてしまったけれど、特に怪我をする事も、体調が悪くなる事もなくて、最後は、みんなで楽しく笑って病院へ戻ったの。同級生より一足早く中学生を体験したみたいで、その日のせつなは、少し興奮しすぎたみたい。みんなが帰った後、せつなは、熱を出したの。そして……」
せつなは、後悔と悔しさを噛み殺すように、唇を噛み締めた。
「そして、元々、他の人よりも抵抗力の弱いせつなは、その熱が原因で、さらに抵抗力を弱めてしまったの。確かに、どこにも怪我なんてしなかった。だから、ちょっと油断していた。まさか、空気中の微生物が原因で死ぬことになるなんて……」
せつなの言葉に、ハッとして息を呑む浩志と優に向けて、少女は寂しそうな笑顔を見せた。しかし、次第に、その顔を歪ませ、声を震わせ始めた。
「病気を甘く見てた。自分の病弱さを分かっていなかった。完全にせつな自身が悪いの」
浩志と優は、ぶるりと体を震わせる。せつなだけは、そんな風など気にしないとでも言わんばかりに、淡々と話し続ける。
「お姉ちゃんは止めたけど、せつなは、正人くんに花壇の手入れを教わりながら作業を続けたの。俊ちゃんは、園芸部じゃなかったけど、あの日はせつなたちに付き合ってくれたんだ。お姉ちゃんは始め、せつなが土を触る事を許さなかった。でも、せつなは、絶対怪我するような事はしないし、無理もしないからって、無理矢理お姉ちゃんにお願いして、渋々みんなと同じ作業をする事を許してもらったの」
せつなは、昔を懐かしむように少し遠い目をしている。小石川から、その時の写真を見せられていた浩志と優には、その時の光景が目に浮かぶようだった。
「土を掘り起こしたり、種を撒いたり、そんな事、今までしたことがなかったから、もう楽しくて、夢中でやった。気がつくと、服は所々汚れていたけれど、それでも、怪我をする事もなく、無事に作業を終えることができたの。その時に、新聞部の人がちょうど校内新聞のネタを探しているから、写真を撮らせてほしいと来て……その時の写真が、さっき2人が見てたやつ」
浩志と優は、せつなの話に無言で頷いた。
「お姉ちゃんには心配をかけてしまったけれど、特に怪我をする事も、体調が悪くなる事もなくて、最後は、みんなで楽しく笑って病院へ戻ったの。同級生より一足早く中学生を体験したみたいで、その日のせつなは、少し興奮しすぎたみたい。みんなが帰った後、せつなは、熱を出したの。そして……」
せつなは、後悔と悔しさを噛み殺すように、唇を噛み締めた。
「そして、元々、他の人よりも抵抗力の弱いせつなは、その熱が原因で、さらに抵抗力を弱めてしまったの。確かに、どこにも怪我なんてしなかった。だから、ちょっと油断していた。まさか、空気中の微生物が原因で死ぬことになるなんて……」
せつなの言葉に、ハッとして息を呑む浩志と優に向けて、少女は寂しそうな笑顔を見せた。しかし、次第に、その顔を歪ませ、声を震わせ始めた。
「病気を甘く見てた。自分の病弱さを分かっていなかった。完全にせつな自身が悪いの」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

絶海学園
浜 タカシ
現代文学
西暦2100年。国際情勢は緊迫した状態に陥っていた。巷ではいつ第三次世界大戦が勃発してもおかしくないともささやかれている。
そんな中、太平洋上に浮かぶ日本初の国立教育一貫校・国立太平洋学園へのサイバー攻撃が発生。しかし、これはこれから始まる悪夢への序章でしかなかった。
希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々
饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。
国会議員の重光幸太郎先生の地元である。
そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。
★このお話は、鏡野ゆう様のお話
『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。
★他にコラボしている作品
・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/
・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/
わたしの王子の願いごと
高橋央り
ライト文芸
初恋を引き摺っている私を狙う、知的でイケメンで肉食系の上司。私はメガネを奪われて、告白されて、断って、冬の街を1人彷徨う。…で、気付いたら何故か目の前に、謎の失踪をしていた初恋の王子がいた――!!!
スメルスケープ 〜幻想珈琲香〜
市瀬まち
ライト文芸
その喫茶店を運営するのは、匂いを失くした青年と透明人間。
コーヒーと香りにまつわる現代ファンタジー。
嗅覚を失った青年ミツ。店主代理として祖父の喫茶店〈喫珈琲カドー〉に立つ彼の前に、香りだけでコーヒーを淹れることのできる透明人間の少年ハナオが現れる。どこか奇妙な共同運営をはじめた二人。ハナオに対して苛立ちを隠せないミツだったが、ある出来事をきっかけに、コーヒーについて教えを請う。一方、ハナオも秘密を抱えていたーー。

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。
虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い
月白ヤトヒコ
恋愛
毒親に愛されなくても、幸せになります!
「わたしの家はね、兄上を中心に回っているんだ。ああ、いや。正確に言うと、兄上を中心にしたい母が回している、という感じかな?」
虚弱な兄上と健康なわたし。
明確になにが、誰が悪かったからこうなったというワケでもないと思うけど……様々な要因が積み重なって行った結果、気付けば我が家でのわたしの優先順位というのは、そこそこ低かった。
そんなある日、家族で出掛けたピクニックで忘れられたわたしは置き去りにされてしまう。
そして留学という体で隣国の親戚に預けられたわたしに、なんやかんや紆余曲折あって、勘違いされていた大切な女の子と幸せになるまでの話。
『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』の婚約者サイドの話。彼の家庭環境の問題で、『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』よりもシリアス多め。一応そっちを読んでなくても大丈夫にする予定です。
設定はふわっと。
※兄弟格差、毒親など、人に拠っては地雷有り。
※ほのぼのは6話目から。シリアスはちょっと……という方は、6話目から読むのもあり。
※勘違いとラブコメは後からやって来る。
※タイトルは変更するかもしれません。
表紙はキャラメーカーで作成。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
恋の味ってどんなの?
麻木香豆
ライト文芸
百田藍里は転校先で幼馴染の清太郎と再会したのだがタイミングが悪かった。
なぜなら母親が連れてきた恋人で料理上手で面倒見良い、時雨に恋をしたからだ。
そっけないけど彼女を見守る清太郎と優しくて面倒見の良いけど母の恋人である時雨の間で揺れ動く藍里。
時雨や、清太郎もそれぞれ何か悩みがあるようで?
しかし彼女は両親の面前DVにより心の傷を負っていた。
そんな彼女はどちらに頼ればいいのか揺れ動く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる