スターチスを届けて

田古みゆう

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12.3月19日 (3)

12.3月19日 (3) p.4

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「変な女に騙されてたら、正気に戻さなきゃって思ったけど、あなたは、多分大丈夫。なんかそんな気がする」

 優は、自身に言い聞かせているのか、それとも、せつなに言い聞かせているのか、あるいはその両方なのか、とにかく、やたらとせつなの存在を肯定している。

 そんな優の隣で、せつなは、恥ずかしそうに俯きながらも、嬉しいのか、ほんのりとはにかんでいる。

「ともだち……」
「そう! いいよね?」

 念押しのように言い寄る優に、少し困惑しながらも、せつなは、小さく肯いた。しかし、すぐに何かに気がついたように、激しく頭を振る。

「やっぱりダメ」
「どうして? 私が友達じゃ、いや? 成瀬だけがいい?」
「……そういうことじゃなくて……」
「じゃ、どうして?」

 優は、小さな子を諭すように、やけに猫なで声で、せつなの言葉を引き出す。

「お姉さんは、優しい人なんだと思う。突然現れた、せつなのことを、怖がらずにいてくれる。ともだちになろうって言ってくれる。でも……でも、どうして? どうして、そんな事がサラリと言えるの? だって、せつなは……」

 そこで言葉を切って俯いてしまったせつなの言葉を、優は引き継ぐ。

「人間じゃないのに? あなたがココロノカケラってやつだから?」

 優の言葉に、せつなは、顔を上げずに小さく肯く。

「どうしてかな? それは自分でも分からない。今でも、幽霊に遭ったら逃げ出しちゃうかもしれないし、最初はせつなさんのこと怖いと思ったし。でも、さっき寂しそうなせつなさんを見たら、声かけなきゃって思ったんだよね」

 そんな優の言葉に、せつなは、今にも泣き出しそうな顔で優を見上げた。

「せつなのこと、怖くない?」
「怖くないよ」

 優は、せつなの瞳をしっかりと捉えて、ゆっくりと首を振る。

「ほんとに、せつなと、ともだちになってくれるの?」
「もちろん! ね、成瀬!」

 力強く肯いてから、優は勢いよく振り返り、浩志を振り仰ぐ。

「お? おお!」

 突如として話を振られた彼は、ドギマギとしながらも、右手の親指をしっかりと立てて答える。

「ふふ。ありがとう」

 せつなは、瞳に溜まった宝石のような涙の粒をスッと拭うと、まるで、一瞬でそこだけ春の盛りになったのかと思うほどに眩い飛び切りの笑顔を見せた。

 3人はそれぞれ顔を見合わせると、楽しげに声を上げて笑い合う。

 ひとしきり笑ったあと、思い出したかのように、ふと浩志が声を上げた。
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