スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
50 / 115
12.3月19日 (3)

12.3月19日 (3) p.3

しおりを挟む
 浩志の問いに、せつなは、少し寂しそうに微笑み、小さく頷いた。

「……一般的にはそういわれる存在だと思う」
「だと思う?」

 浩志は、少女が自身を幽体であると肯定したことよりも、曖昧に濁した言葉尻が気になった。

 そんな彼に、せつなは、寂しそうな横顔を見せながら、小さく頷く。

「周りの人たちに、せつなのことは、見えないから、幽霊と一緒。でも、正確には、今のせつなは、『ココロノカケラ』って言うんだって」

 せつなは、そう言いながら、しゃがむと、まだ生えたばかりの緑の絨毯を、愛おしそうに、そっと撫でる。地上に顔を出したばかりの青葉たちが嬉しそうに、フワリと揺れた。

「ココロノカケラ?」

 せつなの言葉を、浩志は、鸚鵡返しのように、口の中で転がした。

 そのまま、2人の間には、沈黙の幕が降り始める。

 沈黙をもって2人の会話が終わりかけた時、それを遮ったのは、2人から少し離れた場所に立ち尽くしていた優だった。

「私にも、せつなさんの姿、見えてるよ。それに、せつなさんには、足がある! せつなさんは、幽霊とは違うよ!」

 突然の優の力説に、せつなの顔は、珍しくポカンとしていて、少しマヌケな顔になっていた。

「えっと……」

 少女が返す言葉に詰まり、視線を彷徨わせているうちに、優は、それまで彼女を繋ぎ止めていた足枷が無くなったかのように、軽やかに駆けてくると、勢いよくせつなの隣にしゃがみ、ガシリとせつなの腕を取った。

「ほら! せつなさんに触れるもの。あなたは、幽霊なんかじゃない」

 そう言って、優は、ニッとせつなに笑いかける。

「あの……ありがとう」

 優に笑いかけられたせつなは、咄嗟に俯きつつ、それでも小さな声で、礼を述べる。その声は、どこか明るく、嬉しそうだった。

 そんなせつなの様子をニコニコと見ながら、優は自己紹介をした。

「私、河合優。成瀬の友達。で、これからは、せつなさんも友達」

 優の言葉に、恥ずかしそうに顔を伏せていた少女は、バッと音がするほどに、勢いよく顔を上げた。

「とも……だち……?」
「そう。ダメ?」

 目をパチクリとさせる少女に、優は、勢い良く言う。

「私、最初は、せつなさんのこと怖かった。全然得体が知れないし、小石川先生の話を聞いて、幽霊だって思って……それに、成瀬のことだって……」

 そこまで言って、優は、チラリと浩志へと視線を向ける。彼は、突然の優の行動に、呆然としているようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon
ホラー
元特殊作戦群の隊員が親友の娘「詩織」を連れてゾンビが蔓延する世界でどのように生き、どのように死んでいくかを語る

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

レンタルオフィス、借りて下さい

田古みゆう
ライト文芸
 社長の思いつきで始まった新事業の責任者に抜擢された俺は焦っていた。  突然の内示で新事業推進部の部長になった俺。この俺が、部長? 自分で言うのもなんだが、仕事の出来ないこの俺が?  小さな丸眼鏡を掛けた小太りな男、神宮寺と二人で社長から突きつけられた無理難題に立ち向かう。  社長の決めた期限まであと1ヶ月。俺は今焦っている。

処理中です...