スターチスを届けて

田古みゆう

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9.3月17日

9.3月17日  p.1

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 翌日。学校が休みの浩志は、自宅でゴロゴロとして過ごしていた。サッカー部に籍を置きながら、自称帰宅部を名乗っている浩志は、週末は、暇を持て余し気味だった。

 夕刻、玄関のチャイムが来訪者を告げ、しばらくすると、浩志は、母に呼ばれた。自室からノロノロと出ていくと、玄関には、上下ジャージにスポーツバッグを肩から下げた優の姿があった。

「お、お前……どうして?」
「成瀬に話があって。ちょっといい?」

 急いで来たのだろうか。優は肩で大きく息をしていた。

「ちょっと待ってろ」

 そう言いおくと、浩志は、玄関横の扉を開けて、室内へと入っていく。

「母さん、ちょっと出かけてくるわ」

 そんな声が聞こえたかと思うと、浩志は、お茶の入ったグラスを片手に、優の前へと戻ってきた。

「ほい」

 優の前に差し出されたグラスに、目をパチクリとさせていると、なんでもない事のように、浩志は、靴を履きながら、サラリと口を開く。

「急いで来たんだろ。これ飲んで、ひと息つけよ」
「あ……ありがと」

 優は、俯きがちに、目の前のグラスを受け取った。彼の何気ない優しさの詰まったお茶は、彼女の喉だけでなく、心の隅々までも潤してくれるようだった。

 グラスの中のお茶を一気に飲み干し、小さく息をつくと、優は、浩志に向かって、ペコリと頭を下げた。

「ごちそうさま。コレ、どうしよう?」

 空になったグラスを顔の高さまで持ち上げながら、小首を傾げると、浩志は、それを無造作に受け取り、壁際に設置された、腰の高さほどの下駄箱らしき棚の上に置く。

「行こ」

 ぶっきらぼうに言い放ち、浩志は、玄関のドアを押し開ける。優は、慌ててその背中を追いかけつつ、室内に向かって声をかけた。

「お茶ごちそうさまでした~。お邪魔しました~」

 優が浩志の家を出ると、彼は、Tシャツにハーフパンツという、ラフな出で立ちで、ポケットに両手を突っ込み、手持ち無沙汰というように、優を待っていた。

「どこに行くの?」

 優が声をかけると、浩志は、優の少し先を歩き出した。

「近くに公園があるんだ。そこでいいか?」
「あぁ、うん。私は、どこでも。なんなら、成瀬の家でも良かったけど?」

 優が冗談めかしていうと、浩志は、ほとほと困ったように頭を掻きながら、口籠る。

「……いや、家はちょっと……」
「何なに~? 部屋汚いとか?」
「ちげーよ!」

 相変わらず、浩志は、短気に声を荒げる。
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