スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
27 / 116
8.3月16日

8.3月16日 p.3

しおりを挟む
「帰る前に、ちょっと寄りたい所があるんだけど、いいか?」
「うん。いいよ。どこ?」
「1年2組」
「1年2組? なに? 後輩と待ち合わせでもしてたの?」

 優は、目的地が意外なのか、不思議そうに首を傾げる。

「う~ん。まぁ、待ち合わせっていうか……ちょっとな」

 浩志が適当に答えたのが良くなかったのか、彼女は、何か勘ぐるように、それでいて、何も気にしていない風を装って、彼を問いただす。

「あ~、もしかして、後輩女子からの呼び出しだったりする? 私が一緒に行ったらマズくない?」
「ば!……っか。そんなんじゃないわ!!」

 彼が思わず、赤くなりながら、大きな声で否定すると、優は、耳を塞ぎながら、少し、嬉しそうに聞き流す。

「はいはい。違うのね。もう、いちいち大きな声出さなくていいから」
「……お前が、変なこと言うからだろう」

 浩志は、赤くなってしまったことを、誤魔化すように、唇を尖らせ、鼻に皺を寄せる。

「まぁ、後輩女子ってのは、合ってるけど……」
「え゛っ?」

 彼のボソッと付け加えた答えに、今度は、優が大きな声を出してしまう。

「なんだよ? 言っとくけど、別に、お前の思ってるような事じゃないぞ?」
「……そう……なの?」
「ああ。全然そんなんじゃない。けど……」
「けど?」
「そいつもさ、誘ってもいいかな?」
「えっ?」
「アイス」
「……」

 2人で出掛けるのだとばかり思っていた優は、驚きのあまり、声が出ない。

 そんな優には気が付かず、浩志は、到着した1年2組の教室の扉から、教室内を覗き込む。

 窓からの光がきらりと煌めいた。それを受けて、浩志は、一瞬、瞬きをしてから、もう一度室内を覗いてみた。誰もいなかった。

「おかしいなぁ」
「いないの?」

 浩志の呟きに、何処か安堵の色を滲ませながら、優も、浩志の隣に立ち、室内を見回す。

「約束してたんじゃないの?」
「約束って言うか……」

 浩志は、扉から顔を離すと、クルリと背を向けて、扉に背中を預けた。

 そんな彼を視界に捉えつつ、まだ室内を眺めていた優だったが、突然、短い声を上げた。

「あっ!」
「なんだ? 居たか?」

 浩志ののんびりとした声を、優は被せ気味に否定する。

「違う! ねぇ、あれ見て。机に何か置いてあるよ! あれって、前に言ってた折り紙の花じゃない?」
「ああ、アレは……」

 浩志には、優の言っている物が何か分かっていたので、説明をしようと口を開く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

殿下の婚約者は、記憶喪失です。

有沢真尋
恋愛
 王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。  王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。  たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。  彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。 ※ざまあ要素はありません。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

深夜水溶液

海獺屋ぼの
ライト文芸
鴨川月子は海に反射するネオンが好きだった。 人工的な明かりは彼女をゆっくりと東京という街に溶かしていく―ー。 タイトル作品「深夜水溶液」他4人の人物の成長と葛藤を描いた短編集。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

庵の中の壊れ人

秋雨薫
ホラー
「楽しい現実を見せてあげるよ 君にとって楽しい現実かは分からないけど、ね」 気まぐれな魔法使いは、人々に夢と絶望を与える。 「俺は君の願いを“ただ”聞いただけ―」 欲望を胸に抱える人間は、どのように狂う? ※流血や残酷なシーンがあります※ 『山咲 雅斗』願い-未了- 『坂本あんな』願い-未了- 『篠崎 空』 願い-未了- 『大野 陸斗』願い-未了- 『寺田  昭久』願い-未了- 『霧谷マリカ』願い-未了-

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

便箋小町

藤 光一
ライト文芸
この世には、俄かには信じ難いものも存在している。 妖怪、悪魔、都市伝説・・・。 それらを総じて、人々は“オカルト”と呼んでいるが、 そう呼ばない者達も居る。 時に、便箋小町という店を知っているだろうか。 今で云うところの運び屋であるのだが、ただの配達業者ではない。 高校卒業後、十九歳になった垂イサムは、 この便箋小町に入社して3ヶ月になる新入社員。 ただの人間である彼は、飛川コマチ率いるこの店で 俄かには信じ難い不思議な物語の道を歩む事となる。

処理中です...