スターチスを届けて

田古みゆう

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6.3月13日

3月13日 p.4

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 浩志は、その後もしばらくパラパラとページを捲っていたが、これといって目ぼしいページはなかった。

 顔を上げると、いつの間にやら、天窓からの夕日はなくなり、夕闇が天窓を黒く染めていた。

 閉館の時間が近いのか、一人勉強に没頭していた男子学生は、帰る支度をして席を立つと、カウンター周りで忙しそうに動いている司書に、二言三言声をかけて、出ていった。

 浩志は、その様子をぼんやりと見ていたが、司書に閉館を告げられ、本を閉じると、元の場所へ本を戻すため、席を立った。

 最後にもう一度確認と思いつつ、いそいそと待機場所としていた窓から、中庭を覗いてみたが、せつなの姿どころか、そこには、暗闇が広がるばかりだった。

 がっかりとしつつ彼が出口へ向かうと、司書がふんわりとした笑顔で話しかけてきた。

「待ち人現れず、だったわね?」
「えっ、何で?」
「うふふ。なんとなくね」
「まぁ、約束してたわけじゃないんで……」

 そう言いながら、浩志は、頭を掻き、気まずそうに視線を逸らす。

「そうなのね。また、外で待ちぼうけするくらいなら、いつでも図書館を利用してね」
「はぁ。……そうします。それじゃ」
「暗くなったから、気をつけてね」

 外まで出ててきた司書に見送られながら、彼は図書館を後にした。

 そして、もう一度だけ、花壇へ視線をやると、両手をコートのポケットに突っ込み、寒そうに背を丸めて、帰宅の途についたのだった。
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