スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
12 / 115
4.2月27日

2月27日 p.3

しおりを挟む
「え? 違うの? 新入部員ゲットかと思ったのになぁ。あ、でも、きみたち中等部? 中等部でも入部ってできたかなぁ」

 浩志の制服についている学年カラー別の校章にチラリと視線を送りながら、上級生は一人違う方向へ話の水を向ける。入部希望ではないと知りつつも話を進めるあたり、強引に園芸部へ勧誘するつもりだろうか。

 浩志にはそんなつもりは毛頭ないので、早々に話の方向を修正する。

「ここに何かの種が撒いてあるって聞いたんですけど」
「そこ? そこはねぇ」

 上級生は話の転換にきちんとついてきたが、浩志の求める答えは直ぐには出てこないようだ。上目遣いでしばし逡巡の素振りを見せる。その後、ようやく破顔した。

「確かスターチスって花が咲くはずよ。紫の小さい花。以前、園芸部の先輩が育ててたみたい。ここは誰も手入れをしていないのに、毎年きちんと花が咲くんですって。まぁ、私も今年が初めてだから、まだ見たことはないんだけどね」
「はぁ……」

 聞いてみたもののあまり興味のない浩志には、紫の小さな花が咲くかもしれないということしか耳に残らなかった。しかし、彼にはそれで十分だった。

「ちょっと不思議よね」
「不思議?」
「だって、誰も手入れしていないのに花が咲くのよ!」
「はあ……」
「きみには、草花の神秘さは分からないかぁ」

 心底どうでもいいという顔をする浩志を、上級生は残念な子供を見るような目付きで見て軽く頭を振った。その後、浩志との会話に見切りをつけたのか、上級生はこれまで何も言葉を発していないせつなへと歩み寄る。そして、まるで何か意味を含んでいるかのような問いをせつなに投げた。

「この花壇って、何か特別なんだと思うの。ねぇ、あなたもそう思わない?」

 上級生の言葉にせつなの体がピクリと揺れた。その反応から、この後の展開が気になった浩志はぼんやりと話の続きを待った。

 しかし、待てど暮らせどその後どちらも口を開くことはなく、ただ二月の冷たい風にさらされるだけの状況に、浩志はたまらず声をあげた。

「それじゃあ、俺はこれで……」
「えっ? そうなの? この子は?」
「さぁ。俺も、たまたま見かけて声を掛けただけなので、どうするかは本人に聞いて下さい」
「そっか。分かった。気が向いたら、きみもまたここへおいで~。中等部でも入部できるか、先生に確認しておくよ」

 やはり入部をごり押ししてくる上級生に苦笑いを向けてから、浩志は寒そうに両肩を縮めて校舎内へ戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

致死量の愛と泡沫に+

藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。 世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。 記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。 泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。 ※致死量シリーズ 【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。 表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。

アルンの日々の占いや駄文【5】

譚音アルン
エッセイ・ノンフィクション
タイトル通り。

時戻りのカノン

臣桜
恋愛
将来有望なピアニストだった花音は、世界的なコンクールを前にして事故に遭い、ピアニストとしての人生を諦めてしまった。地元で平凡な会社員として働いていた彼女は、事故からすれ違ってしまった祖母をも喪ってしまう。後悔にさいなまれる花音のもとに、祖母からの手紙が届く。手紙には、自宅にある練習室室Cのピアノを弾けば、女の子の霊が力を貸してくれるかもしれないとあった。やり直したいと思った花音は、トラウマを克服してピアノを弾き過去に戻る。やり直しの人生で秀真という男性に会い、恋をするが――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

百々五十六の小問集合

百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ ランキング頑張りたい!!! 作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。 毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。

月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま
ライト文芸
「タク、この前の続き聴かせてよ、月のやつ」 主人公の女子高生、早貴に対して親友以上の気持ちを持つ千代。 早貴を意識し始めた幼馴染の多駆郎。 この二つの恋が三人に関わるキャラ達を巻き込む。 気持ちをぶつけ合い、喜びも悲しみも経験として乗り越えてゆく。 登場人物それぞれの生き様をご覧ください。 そして、そんな中にも少しのロマンで味付けは忘れていません。 トキメキを求めている方々にお届けします。 ツイッターにて、作品紹介PVを公開しております。 よろしくお願い致します。 (小説家になろう、カクヨム、ノベルアッププラスへも投稿中) ※この作品は全てフィクションです。それを前提にお読みくださいませ。  © 2019 沢鴨ゆうま All Rights Reserved.  転載、複製、自作発言、webへのアップロードを一切禁止します タグ: 女子高生 年上 大学生 学園 高校 高校生 中学生 キス 学校 姉妹 姉弟 鈍感

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

処理中です...