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 しかし、どうして子どもがいるのだろうか。平日の昼日中、本当なら学校へ行っている時間だろうに。真由は辺りを見回してみたが、親らしき姿は見当たらなかった。

 本来なら子どもが公園にいることは、決して悪いことではない。むしろ、微笑ましいことだろう。

 しかし、今の真由には、少々都合が悪かった。職場のすぐそばには、ここよりも遊具や憩いの場が整った、公園らしい公園があるのだが、真由がそこを利用せず、この公園を至福の場所と定めたのには理由があった。

 それは、この公園には利用者、特に子どもがいないからである。

 真由にとっては、至福の時間である一服でも、世間一般には煙たがられ、特に、子供のそばでタバコを吸おうものなら、その親から、どんな言いがかりをつけられるか分からない。

 だからこそ、あまり人気のないこの寂れた場所を選んでいるというのに、今日は、何故だか、先客がいるのだ。

 仕方なく、指定席から少し離れた台座に座り、黒尽くめの先客が風下にならない事を確認してから、ポーチから、タバコとライターを取り出した。

 カチリとライターを鳴らして、思いっきりタバコを吸う。目を閉じて、うちに溜まったモヤモヤとした思いと一緒に、長く息を吐き出した。ちょうどその時、背後から突然の声がして、思わず咽せる。

「体に悪いからやめなよ」

 咽せながら振り返れば、そこには、全身黒尽くめのあの子が立っていた。大きな鍔のせいで、やはり表情は分からない。

「えっと、私のことかな?」

 真由は、周りを見回して見たが、自分たち以外に、近くに人影はない。しかし、面識のないこの子の言葉が、本当に自分に向けられたものだろうかと、真由は不思議に思いながら、そっと声をかけてみた。

「それ以外に、誰がいるっていうの」

 子供は、呆れたように肩をすくめて見せる。どうやら、本当に自分に声をかけているようだと、真由は認識したが、突然の出来事に唖然としてしまい、しばらく言葉が出てこなかった。

 手の中のタバコが風に煽られ、ジジジッと焼けて、短くなっていく。

「タバコ消しなよ」

 子供の言葉で我に帰った真由は、ほとんど吸っていないのに、小さくなってしまったタバコを、携帯灰皿の中で揉み消し、吸い殻をその中に押し込んだ。

 大きな帽子の陰になってその顔は分からないのに、何故だか、じっとこちらを見つめてくる視線をヒシヒシと感じて、居た堪れなくなった真由は、スッと立ち上がると、黙ってその場を後にした。
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