あいつを呼べ!

田古みゆう

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 書類を前に、二人は腕を組んだり、目を瞑ったり。一体、誰に連絡をするべきかと、各々が頭をフル回転させて考えていると、秘書室の扉をガチャリと開けて、包みを手にした兄、蘭丸が入室してきた。

 蘭丸は、二人の姿に目を丸くして、口を開く。

「二人とも、私の机の前で、一体何をしているのだ?」

 それぞれが、それぞれに考えに没頭していたので、二人は蘭丸の声に飛び上がらんばかりに驚いた。しかし、蘭丸の姿を認めると、すぐに歓喜の声をあげる。

「兄さん!」
「蘭兄さん!」

 二人がすごい勢いで詰め寄ってくるので、蘭丸は、その勢いに押され、しばし、その場に立ち尽くす。そんな、蘭丸のことなどお構いなしに、弟二人は兄を取り囲み、怒涛のように話し始めた。

「兄さん。こんな大変な時に、一体どこへ行っていたのさ」
「え? もうすぐ昼時だから、宅配弁当に注文していた弁当を、受付けまで受取に……」
「蘭兄さん、今は、そんな暢気に弁当なんて言っている場合ではないのですよ」
「何かあったのか?」

 二人のただならぬ様子に、蘭丸が眉を顰める。それとは対称的に、坊丸と力丸は、これで押しつぶされそうなプレッシャーから解放されると、内心ホッとしていた。

 少し心に余裕ができると、蘭丸が手にする弁当からの旨そうな匂いに鼻が刺激され、坊丸と力丸の腹が同時に盛大な音を立てる。

 その音にハッとした蘭丸は、二人を掻き分け、休憩スペースとして空けてある机に向かうと、手にしていた包みを丁寧に置き、その中から、弁当を四人前取り出した。

「まずは、昼食にしよう。ぼうは、お茶の用意を。りきは、おしぼりを用意して」
「だけど、兄さん。今は、昼なんて言っている場合じゃ……」

 蘭丸の指示に、坊丸と力丸は、懸念の表情を見せるが、上司である蘭丸は、頑として認めない。

「社長は、十三時から会議があるんだ。それまでに、ゆっくりと食事を取ってもらわなくてはならない。今、秘書の我らが第一にすべきことは、社長の食事の準備だ。それ以外の事は、準備が終わってから聞くから。今すぐ私の指示通りに動け」

 有無を言わせぬ蘭丸の指示に、坊丸と力丸の二人は渋々従う。お茶とおしぼりの用意は、二人の本来の仕事なので、作業は慣れたもの。すぐさま、準備を終わらせた。二人の用意したお茶とおしぼり、そして、弁当を一人前、お盆にセットした蘭丸は、それを手に、社長室への扉をノックし、流れるような身のこなしで、中へスルリと入っていった。
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