あいつを呼べ!

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
5 / 8

p.5

しおりを挟む
 叱責を恐れるあまり、動けなくなってしまった二人は、引き攣った互いの顔を見つめるばかり。

 しかしそれでは、問題は解決しないどころか、その先には、恐怖の織田社長が待ち受ける。

 力丸は、ぎこちなく視線を彷徨わせ、手にしていた資料を蘭丸の机の上に戻すと、震える手を別の資料へと伸ばす。

「力丸?」

 力丸のぎこちない動きに、坊丸も、ようやく凍結から解放されたかの様なほうけた顔のまま、力丸の手の中を覗き込む。

「坊兄さん。ここだけの話ですが、私は、正直、失敗するのが怖いです」
「それは、私だって同じだ」

 力丸の掠れそうな声に、坊丸は消え入りそうな声で同意する。

「ならば、ここは、じっくりと資料を検分すべきではないでしょうか」
「だが、織田社長は、『今すぐに』と仰ったではないか。我らにぐずぐずしている時間はないぞ。速やかに対応せねば」

 資料の再検分を申し出る力丸に、坊丸は時間がないと迫る。しかし、力丸は、頑なに首を振る。

「ですが、織田社長が待っている方に的確に連絡出来なければ、我らはお叱りを受けてしまいます。急がば回れと言うではないですか。ここは、一旦落ち着いて、資料の検分をきちんと行いましょう」
「……確かにそうだな。急いては事を仕損ずると言うし、一度心を落ち着けて検分するべきかも知れないな。だが、時間がないのも確かだ。素早く的確に判断するぞ」
「はい! 坊兄さん」

 二人は意を決すると、手元の資料に目を落とした。

「こちらの資料は、滝川関東支部長から提出されている社屋の修繕見積書のようですね。どうやら玄関まわりの修繕と、別棟の増築を検討されているようです」
「玄関の修繕など必要だろうか? 先週出張で行ったが、特に損壊など目につかなかったが……?」

 見積書の内容に、坊丸は首を捻るが、それを力丸は、したり顔で組みした。

「玄関は、会社の顔ですからね。損壊があってからでは遅いでしょう。常に、頑丈で、尚且つ、立派な門構えである事で、我が社の威光を社外に知らしめる事ができるのですから」
「確かに。力丸の言う通りだな。それで言うと、別棟の増築も、我が社の権威を示す事になるだろうし、この見積書について、滝川支部長を呼んで確認する事はないんじゃないか?」

 坊丸は問題なしと判断し、次の資料へと手を伸ばそうとする。しかし、ここで力丸が些細な事を言い出した。

「ですが、見積書だけで良いのですか? 別棟のデザイン案などは、提出されないのでしょうか?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

蝶の羽ばたき

蒼キるり
ライト文芸
美羽は中学で出会った冬真ともうじき結婚する。あの頃の自分は結婚なんて考えてもいなかったのに、と思いながら美羽はまだ膨らんでいないお腹の中にある奇跡を噛み締める。そして昔のことを思い出していく──

何でも屋

ポテトバサー
ライト文芸
幼馴染の四人が開業した何でも屋。 まともな依頼や可笑しな依頼がこれでもかと舞い込んでくるコメディー長編! 映画やドラマに飽きてしまったそこのアナタ! どうぞ「何でも屋」をお試しあれ。活字入門にもうってつけ。どうぞ本を読まない方に勧めてください! 続編のシーズン2もあります!

ロボ彼がしたい10のこと

猫屋ちゃき
ライト文芸
恋人の死に沈んでいる星奈のもとに、ある日、怪しげな二人組が現れる。 その二人組はある人工知能およびロボット制御の研究員を名乗り、星奈に人型ロボットのモニターになってくれないかと言い出す。 人間の様々な感情や経験のサンプルを採らせるのがモニターの仕事で、謝礼は弾むという。 高額の謝礼と、その精巧な人形に見える人型ロボットが亡くなった恋人にどことなく似ていることに心惹かれ、星奈はモニターを引き受けることに。 モニターの期間は三ヶ月から半年。 買い物に行ったり、映画を見たり、バイトをしたり…… 星奈とロボットの彼・エイジの、【したいことリスト】をひとつひとつ叶えていく日々が始まった。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語

菱沼あゆ
ライト文芸
「俺が寝るまで話し続けろ。  先に寝たら、どうなるのかわかってるんだろうな」  複雑な家庭環境で育った那智は、ある日、ひょんなことから、不眠症の上司、辰巳遥人を毎晩、膝枕して寝かしつけることになる。  職場では鬼のように恐ろしいうえに婚約者もいる遥人に膝枕なんて、恐怖でしかない、と怯える那智だったが。  やがて、遥人の不眠症の原因に気づき――。

処理中です...