あいつを呼べ!

田古みゆう

文字の大きさ
上 下
3 / 8

p.3

しおりを挟む
 何事かと、力丸が坊丸へ目をやると、坊丸は、何やら、手に持った資料を読み込んでいる。

「坊兄さん。どうしたんですか? 早く明智支部長に連絡を取らなくては……」
「ちょっと待て、力丸。もしかしたら、我らは、早合点していたかも知れないのだ」

 焦る力丸を口で制しながら、坊丸は資料から目を離さない。

 ジリジリとした気持ちを抑えながら、力丸が大人しく待っていると、ようやく資料に目を通し終えた坊丸が、顔を上げた。

「もしかしたら、我らが連絡を取らねばならないのは、羽柴中国支部長かもしれん」
「羽柴支部長? 何故ですか?」

 怪訝そうに首を傾げる力丸に、坊丸は手にしていた資料を渡す。

 手渡された資料は、中国支部から提出された収支報告書のようだ。

「これが何か?」

 不思議そうに資料に目を通す力丸の隣で、坊丸は、ある一点を指して言う。

「この収支は、他の支部に比べてどちらも数が大きいのではないだろうか?」
「そうなのですか?」

 新人秘書の二人は、まだ会計報告に立ち会った事がなく、収支の細かなことなどわからなかった。

「私も、よくは分からないが、先日、蘭兄さんに見せてもらった他支部の収支表よりも、一桁ほど多い気がするのだ」

 坊丸は、眉間に皺を寄せ、じっと資料を見据える。そんな坊丸の横顔に、疑問を含んだ力丸の視線が注がれる。

「そうなのですか? でも、中国支部は、最近物凄い勢いで営業エリアを拡大しているようですし、他支部よりも収支の増減は大きいのかも知れないですよ?」

 力丸の言う通り、中国支部は、今、どこの支部よりも勢いが大きく、社内でも一目置かれているエリアだった。

「しかし、やはり、この短期間にこの額と言うのは、あり得る事だろうか? まさか、水増し?」
「まさかっ!? 中国支部は、織田社長の腹心と言われている、あの羽柴支部長の管轄ですよ? そんな事、あるわけありませんよ」
「だが、腹心だからこそ、内々に処理しようと個別に呼ばれるのかも知れないぞ?」

 坊丸の突拍子もない推理に、二人は恐れ慄き、しばし黙って見つめ合った。それから、力丸は声を震わせ、坊丸に確認する。

「では、織田社長がお呼びなのは、羽柴中国支部長でしょうか?」
「う~ん。そんな気が……」

 再度念押しをすると、途端に弱気になってしまった坊丸を尻目に、力丸は内線電話の受話器を持ち上げた。

「もう! 坊兄さん。時間がありません。羽柴支部長に連絡しますよ」

 そう言って、力丸は、内線番号を押し始める。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スマホゲーム王

ルンルン太郎
ライト文芸
主人公葉山裕二はスマホゲームで1番になる為には販売員の給料では足りず、課金したくてウェブ小説を書き始めた。彼は果たして目的の課金生活をエンジョイできるのだろうか。無謀な夢は叶うのだろうか。

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

何でも屋

ポテトバサー
ライト文芸
幼馴染の四人が開業した何でも屋。 まともな依頼や可笑しな依頼がこれでもかと舞い込んでくるコメディー長編! 映画やドラマに飽きてしまったそこのアナタ! どうぞ「何でも屋」をお試しあれ。活字入門にもうってつけ。どうぞ本を読まない方に勧めてください! 続編のシーズン2もあります!

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語

菱沼あゆ
ライト文芸
「俺が寝るまで話し続けろ。  先に寝たら、どうなるのかわかってるんだろうな」  複雑な家庭環境で育った那智は、ある日、ひょんなことから、不眠症の上司、辰巳遥人を毎晩、膝枕して寝かしつけることになる。  職場では鬼のように恐ろしいうえに婚約者もいる遥人に膝枕なんて、恐怖でしかない、と怯える那智だったが。  やがて、遥人の不眠症の原因に気づき――。

【完結】喫茶店【カモミール】〜幽霊専門の喫茶店に居候する事になりました~

佐倉穂波
ライト文芸
 アパートの上の階が火事になったことで、改修のためアパートを退居しなくてはいけなくなった鈴音は、失踪した父親の残したメモに書かれていた場所を頼ることにした。  しかし、たどり着いたその喫茶店は、普通の喫茶店ではなかった。  店のコンセプトは“癒やし”。  その対象は幽霊だった。  これは居候兼アルバイトとして【カモミール】で働く事になった霊感少女と幽霊との物語。 〔登場人物〕 ●天宮鈴音:主人公 15才  ●倉橋晴香:喫茶店【カモミール】の店長代理 ……………… 21話で一旦完結。 心温まる系の物語を目指して書きました。

処理中です...