記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ

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泣いてなくて良かった

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 エドワーズ公爵様から、やり直したいと言われた私。
 落ち着いて話そう。大丈夫、泣かない!

「…公爵様、私はマーティン将軍閣下と婚約致しました。あのお方と、この先の人生を歩んでいくことに決めたのです。」

「その結婚に愛はあるのか?」

「今の私は、愛よりも平穏な生活を望んでいるのです。」

「なんてことだ…。平穏な生活なんて、私だって与えることは出来る。」

「公爵様。私のことなど忘れて、周りから祝福してもらえる方と結婚してくださいませ。公爵様の家族が認めてくれるような、素敵なお方は沢山いらっしゃいます。」

「私にはソフィーだけだと思っている。周りが何かを言うようなら、そんな人間は消してやるし、私の家族が何か言うなら、公爵はやめてもいいと思っている。
 それでもダメなのか?」

「私のために、周りに敵を作らないでくださいませ。公爵様は素晴らしい領主様なのです。簡単に公爵を辞めるなどと言ってはいけませんわ。
 それに色々ありましたが、将軍閣下は真面目で誠実な方です。今日のことも、将軍閣下が公爵様と話すようにと言ってくれたことがきっかけなのです。私はあの方について行きたいと思っています。」

「…そうか。ソフィーの意志は固そうだな。分かった。
 ただ、最後に私の希望を聞いて欲しい。」

「希望ですか…?」

「婚約解消になったが、これからは仲の良い友人になることを許してくれないか?」

 こんな別れなのに、公爵様は心の広い方のようだ。

「友人ですか…?勿論ですわ。」

「ありがとう。会えば楽しく会話出来るような…、何かあれば、お互い何でも相談し合えるような、そんな友人になりたい。いいか…?」

「はい。これからは友人としてよろしくお願い致します。」

「ああ。友人として、これからもずっと仲良くしよう。」

 今後、社交場で会った時に、お互い気まずいことのないようにと気を遣ってくれているのだろうね。最後まで優しい人だ。
 結局、結婚は出来なかったが、この人が婚約者で良かったと思う。

「公爵様、私は公爵様と出会えて幸せでした。本当にありがとうございました。」

「私もだ。ありがとう、ソフィー。」




 きちんと話せて良かった。寂しさはあるが、それよりもスッキリした気持ちが大きいと思う。一歩前に進めたと言うことかな…。

 その後、仲良しメイドとカフェにお茶をしに行く私。
 こんな時は、美味しいスイーツでも食べて気分転換するのが一番だね。

「お嬢様、このケーキ美味しいですわ!」

「そうね!邸で留守番しているメイド達にお土産として買って帰りましょう。」

「まあ!みんな喜びますわ。」

 両親と邸の使用人達に沢山のケーキを買って帰ると…、

「お嬢様、お帰りなさいませ。
 将軍閣下がお待ちになっております。」

 今日は約束してないと思うけど。まさか…!
 あの人は細かいことは気にしなそうだから、着替えなくていいよね。急いで、将軍閣下の待つ応接室に行く私。

「将軍閣下、お待たせしてして申し訳ありませんでした。」

 応接室にいた将軍閣下は、私の顔を見てホッとしたような表情をしていた。

「突然来てしまって悪かった。
 その…、今日は大丈夫だったのかと不安になってしまって。
 君が王宮に来ているのは知っていたのだが、すでに帰ったと聞いて、慌てて邸に来てみたのだが、まだ帰ってないと言われて、途中で何かあったのかと心配になってしまった。でも、こうやって顔を見たら元気そうだったから良かった…。」

 忙しい人なのに、こうやって心配して来てくれたのか。悪かったな…。

「ご心配をおかけしました。
 将軍閣下、今日はエドワーズ公爵様ときちんと話が出来ました。これからは、友人になろうと言って頂けましたわ。公爵様と話が出来て良かったです。
 将軍閣下が背中を押してくれたおかげですわ。ありがとうございました。」

「そうか…。友人になることになったのか。君が泣いてなくて良かった。」

 そう言って優しく微笑んでくれた。温和な人なんだと思う。

 将軍閣下はその後、私が買って来たケーキを食べて、また仕事に戻って行った。

 

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