記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ

文字の大きさ
上 下
122 / 133

お人好し

しおりを挟む
 仕事が多忙な中でも、時間が合えば会いに来てくれ、少しずつ将軍閣下に慣れてきた頃だった。

「ソフィア嬢。君に話したいことがある。」

 突然、真顔になる将軍閣下。何かあったのかな?

「はい。何かありましたか?」

「……エドワーズ公爵閣下が君に会いたがっているようだ。」

「………。」

「そんな不安そうな顔をしないでくれ。こんな話をすることを許して欲しい。
 君とシスティーナ国の大公殿下との縁談がなくなったのは、裏でエドワーズ公爵閣下が動いてくれたからだと陛下が教えてくれた。」

「エドワーズ公爵様がですか?」

「ああ。君も君の両親も、その縁談に乗り気でないということを知った公爵閣下が、手を回してくれたらしい。」

 私の知らない所で、そんなことをしてくれていたのか。
 あの大公様相手に、どんな力を使ったのか気になるが…。

「君は目覚めてから、一度も公爵閣下に会ってないと聞いている。」

「…はい。」

「一度でいいから会って話をしてあげて欲しい。公爵閣下も苦しんでいたと思うんだ。
 私がこんなことを言うのは図々しいとは思っている。だが、このままでいるのは良くないと思うんだ。」

 今の婚約者が、前の婚約者に会って話をしてあげろと言っている…。この人は性格が悪いのか、お人好しなのか。

「会うのが辛いと言ったら…?」

「会っても会わなくても、きっと辛いだろう。だが、今会わなくても同じ貴族同士だから、いずれ顔を合わせる時は来てしまう。だったら今、会って話をしてもいいのではないかと思うんだ。」

 正論だとは思う。辛くて逃げていたことは事実だし、そんな私のために、大公様との縁談がなくなるように動いてくれたのだから、感謝も伝えなくてはならない。

「……分かりました。」



 その機会はすぐに訪れた。エドワーズ公爵様が王宮に来る日があるので、その日に会ってみてはと陛下が提案してくれたのだ。

 少し前に大公様と別れの挨拶をした、王宮の応接室の隣の小部屋で待つ私。
 緊張するな…。今更、何で言おうか。そんな風に考えていたら、ドアがノックされる。

 ドアが開いて入って来たのは、あの毒を盛られたパーティー以来会っていなかったエドワーズ公爵様だった。

「ソフィー。元気になって良かった…。」

 キリッとしたイケメンだった公爵様は、何となくやつれたように見えた。

「…エドワーズ公爵様。ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした。」

「ソフィー、私こそ君に謝りたい。守るといいながら、守れなくて悪かった。毒で苦しむ君を見て、私が死ぬかと思うくらい辛かった。
 でも、こうやって元気になった姿が見れて嬉しい。」

 目を細めて私を見つめる公爵様。心配かけたんだよね。

「私が意識が戻らない間、何度もお見舞い来て、話しかけて下さったと聞いております。それに大公様との縁談も、公爵様が裏で動いてくれたと聞きました。
 ありがとうございました。私は幸せでした。」

「それは私がやりたくてやっただけだから、気にしないでくれ。
 幸せでした…か。私はソフィーと幸せになりたい。今もソフィーを愛している。またやり直せないか?」

 落ち着け…。泣くな…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...